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「すみません、遅くなりました……」
「鬼頭くんお帰りなさぁい!」

 中に入った瞬間、美保にさっきと同じように抱きつかれて仰け反り、今度は隣にいた穂鷹が支えた。

 小声で「この人酔っ払ってるの?」と聞いてきた穂鷹に思わず笑ってしまった。
 全くの素面だと確信を持っていえるが、確かに酔っ払っているように見える。

「俐音、帰るぞ」
「え、え? ひび……」

 俐音から美保を乱暴に引き剥がすと、次に腕を引っ張って部屋から出ようとする響。
 怒っているというよりも、焦っているようだ。

「えーもう帰っちゃうの?ゆっくりしてけばいいのに」
「……はは」

 ゆっくり出来ない理由は美保にある。

「待て鬼頭」

 早川が小走りに寄ってくると、厚みのある封筒とペットボトルを一本手渡してきた。

 封筒は生徒会に渡せという事だろう。
 そしてペットボトルは見覚えがあった。

 こっそりと机の上に置き去りにしようとしていた、盛大に落として一度泡まみれになったサイダーだ。

「忘れ物」
「うん、忘れてた」

 というか忘れていてほしかった。
 もう一度乾いた笑いを漏らす。

「すみませーん、じゃあオレらもう俐音ちゃん連れて帰りますねぇ」

 穂鷹が俐音の首に腕を巻きつけて引き寄せた。

「うぐっ」
「俐音ちゃん変な顔ー」
「う、うるさい……」

 この部屋の隅に置きっぱなしにしていた俐音のカバンを響が見つけて持ち上げ、そのままドアに向かって歩き出した。

「あ、響カバンカバン」

 カバンを受け取って荷物を入れる。
 そのときに偶然目に入った携帯電話が光を放っているのに気付いた。

「緒方先輩だ!」

 受信したメールを開くと写真が一枚添付されていて、それを見た瞬間に吹きだした。

 そこには旅行を満喫している緒方と、すでに若干疲れ気味の小暮、そして一人しれっとしている壱都が写っている。

「いつも通りだな」
「うん、いつも通り楽しんでるみたいだね」

 覗き込んだ響と穂鷹の言葉に俐音は頷いた。

 早く返ってきてほしい気持ちはやはりある。
 けれどこんなものを見せられては、泣き言など言えない。

 帰って来たら盛大に甘えてやろう。慰めてもらおう。

 元気を貰おう。

 まずは心配してここまで迎えに来てくれた二人にお礼を言わなければ。
 どれだけ嬉しかったと思う。

俐音は二人の間に割って入って両手をそれぞれ繋いだ。





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