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 放課後、俐音は言われた通り特別棟に行った。
 あれから神奈も成田も教室には現れず、俐音一人で来たのだが指紋照合するらしいドアをどうやって開ければいいのかと、部屋の前で止まる。

「あ、鬼頭もう来てたのか」

 どうしようか考えていると、小暮が現れて「今開けるな」とポケットからカード型の鍵を取り出して開錠した。

 小暮はきちんと授業に出ていたらしいと手に持っていたカバンを見て思った。
 それからやっとカードキーを使っている事に疑問を感じた。

「あの、指紋……」
「それ別にしなくてもこのカードキーで開くよ。指紋はまぁ鍵忘れた時とかに。ほとんど飾りみたいなものだから」
「こんなインテリア要らないでしょ、しかも内側とか特に!」
「中も鍵使わないと開かないのは設計ミスらしい」
「欠陥? ドアが!?」

 有り得ない……、杜撰なお金の使い道に何故か俐音の頭が痛くなってきた。

「あれ直してもらわないと不便だよな。今度理事長に言ってみるか」

 ドアを開けて部屋に入ったが、中には誰もいない。

「取り敢えず全員が揃うまで寛ごう。コーヒーでいいか?」
「俺が淹れますよ」

 カップを二つ取り出す小暮に駆け寄る。

「気を使わなくていいよ。俺が飲むついでだから」
「有り難う御座います」

 笑って座るように促す小暮に礼を言って俐音はソファに座った。

 しばらく二人で他愛もない話をしているとカチャとロックが外れる音がしてドアが開いた。

「うわー、めちゃくちゃ寛いでるー」
「いいなコーヒー! オレもコーヒー欲しい!」

 入ってきた緒方と成田に視線を向けた。
 二人が来ただけでいきなり騒がしくなったような気がする。

「欲しいなら自分で淹れろよ」
「えー俐音ちゃん優しくない!」
「成田はウザい」
「何で、どこが!?」

 心底驚いたようにしつこく訊いてくる成田を「そういう所がだよ」と冷たくあしらう。

「それより緒方先輩、成田と一緒だったんですか?」
「それより!?」
「うんやー、そこで偶然ドッキリバッタリがっかり会っちゃっただけ」

 あははは、と緒方は笑う。

「がっかりって……二人ともヒドすぎ!」

 泣きまねをする成田を見かねて小暮がそっと肩に手を置いて言った。

「これでも飲んで落ち着け? もう冷めてるけど」

 差し出したのはさっき淹れた珈琲。
 つまりは小暮の飲みかけで、しかももう外気に触れて熱さはなくなっている。

 俐音には頼れる先輩を地で行く態度だった小暮でさえこの対応だ。


 いじけ続ける成田に「ウザい!」と緒方が痛烈な一言を浴びせた時、福原がちょうど部屋に入って来た。

 どういう状況なのか理解するようにしばらく眺めてから「なんだか賑やかだね」と俐音に笑いかけた。

 状況判断をするまでもなく馬鹿らしい経緯に違いないと見切りをつけたのだ。

「わっ!」

 成田達に興味を無くした福原は俐音に後ろから抱きついた。
 突然のことに硬直してしまった俐音の頭の上に自分の顎を乗せる。

「あ、これちょうどいい位置だね」
「うわっそのまま喋らないで下さい! なんか気持ち悪……」
「へぇ気持ち悪いんだ」

 どうやらその体勢が気に入ってしまったらしく離そうとしない。

 何で私はこの人に抱きつかれているんだろう。

 頭の天辺にもやもやと言い表しがたい感覚をなんとかしたくてもがくも福原は退いてくれない。



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