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「早く泣き止んでよ。ボクが泣かせたみたいでしょ」
「事実そうだろうが! 泣き止んでほしいなら私の気分を晴れやかにしろよ、この犬野郎!」

 これでもかと言わんばかりに睨み付ければ、目の前にいる男は考えるように視線を巡らせて、さらに一歩前に出て俐音に近づいた。

 身構える間もなく両頬を固定されてガツンと一発。

 頭突きを食らわされた。

「――い……いたーっ! 何するんだ!?」
「これで気分が晴れた。ボクの」
「お前の気分なんか晴らしてどうする! 今ので私の心の中どしゃ降りの大洪水ですけど!?」
「たまには雨降らないと干からびるよ」
「うわーお前嫌いだ! 大っ嫌いだ!」

 何を言っても言い返してきやがって!
 胸倉を掴んで揺さぶったら今度は頭に手刀され。

「煩いな」
「お前はムカつく……」

 こんな不毛な言葉の応酬をいつまでもやってはいられない。
 けれど負けるのが悔しくてついつい言い返してしまうのだ。

「ところであんた、男子校でしかも寮に入ってるあいつとどういう知り合い?」
「今更……? えーそもそも学校が、いやまず私の生い立ちから話すべきか」
「全く聞きたくないんだけど」
「俐音ちゃん!」

 しどろもどろな俐音を助けるように素晴らしいタイミングでドアを開けたのは、今は学校で授業を受けているはずの穂鷹だった。

「穂鷹……何でいんの!?」
「守村に聞いて心配になったから迎えに来たに決まってるでしょ。ここは色々と問題ある所なんだから!」
「それは身をもって体感した」

 本当に色々と。疲れすぎて頭が痛くなるほどに。
 ふらふらとした足取りで穂鷹の隣まで行く。

「じゃあ俐音ちゃん行こ」
「んー」

 差し出された手に自分の手を乗せてから後ろを振り返ると憮然とした表情のまま突っ立っている双葉が目に入った。

 今度、壱都に彼の事を聞こう。
 忘れないように口の中で何度か名前を復唱する。

「穂鷹だけ? 響は?」
「いるよ。生徒会室で女の人に『きゃー羽柴と同じ顔してるー!』って捕まっちゃったから置いてきた。可哀相だったけどねー」
「響……本当に可哀相に」

 情景が目に浮かぶ。
 このまま放っておきたいところだが、わざわざ迎えに来てくれたわけだし、さすがにそれは気が引けて嫌々ながら再び生徒会室に戻る事にした。




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