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「私にはそこまで壱都先輩を嫌う方が不思議」
「あいつは自分さえ良ければそれでいい最低な奴だ。他人が横でどれだけ傷つこうが気にも留めない。あんたも痛い目見る前に離れた方がいい」

 なんでそんな事コイツに言われなきゃいけないんだ。

 俐音は歯を食いしばった。

 確かに壱都は興味ないものは初めから存在しないものとして振舞うような人だけれど。

 面倒だと思った事には指一本動かそうとしない人だけれど。
 他人の不幸を喜んで微笑みながら眺めて堪能したりする人だけれど。

「嫌だ。絶対離れたりしない」

 今度こそ、今度こそ逃げないって決めた。
 握った手を自分から振り解いたりしない。

「……別にどうでもいいけど。後悔するのあんただし」
「しない!」
「何も知らないんだな、あいつがどんな奴か。知ったらボクの言ってること理解できる」

 静かな怒りが篭った瞳。
 嫌いなんて一言で言い表せるようなものじゃない、色んな感情が織り交ざってどろどろとした底知れなさを感じた。

 それは以前に壱都が描いたという絵によく似ていた。

 双葉と壱都がどんな関係なのかは知らない。
 分かるのは双葉が壱都を最低な人だと言って拒絶しているという事。

 人それぞれ感じ方、捉え方が違うのは当然だ。
 彼の中で壱都は絶対忌むべきもの。
 それだって多分間違いではない。

 だけど、それを俐音にまで押し付けられるのは我慢ならなかった

 私の中の先輩はそんなんじゃない。

「そりゃ…・・セクハラなんて日常茶飯事で慣れてきちゃったくらいだし、たまに笑顔で無意味な嫌がらせしてくるけど。でも、でも、自分のことしか考えてないなんて、そんなの……嘘だ……」

 だって優しく頭を撫でてくれるんだ。

 いつも昔の夢を見て泣いた後は、傍にいるから大丈夫だよって言ってくれる。
 それだけで単純にも俐音の涙は止まった。

 あの時の笑顔は紛れもなく俐音に向けてくれたもので、掛けてくれた言葉は確かに俐音のためのものだ。


 双葉が言ってる部分を俐音が知らないように、双葉だって知らない部分がある。
 でも分かろうとしない、お互いに。違うと突っぱねる。
 そういうものかもしれない。


 だけど今、理解してもらえないのが悔しい。
 壱都がまるで悪者みたいに思われてるなんて許せなかった。

 お願いだから否定しないでほしい。

「……なんで泣いてんの」
「知らな、勝手に出てく……」

 意志とは関係なく零れてくる涙を服の袖で拭っても、次から次から溢れてきてきりがない。

 こんな時はどうすればいいんだっけ、とうまく働かない頭で考えてみれば浮かんできたのは壱都の顔で。

 無性に会いたくなった。

 セクハラだって耐えてみせるから、いつもみたいに安心させて




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