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 身を捩って逃げようとするが、俐音も樹に支えて貰っている体勢なのでさほど動けない。
 しかも女の人とは思えないほど力強く、何より陶酔したような笑顔が怖い。

「やっと会えたわ、最悪春まで待たなきゃいけないかと思った」
「は……え?」
「別に千春でも篤志でも良かったんだけどね、あまりに見苦しそうじゃない?」

 漸く離れ、どかりとイスに脚を組んで座り、机に肘を付くという実にラフな体勢で俐音にそう振ってきた。

 話の内容は一切見えない。が、俐音は確信を持って言えた。
 この人が生徒会長だと。

 早川は忙しく動き回っていて全く話に参加していないし、樹もフォローできないとばかりに首を振るばかりだ。

「あの、何の話ですかね?」
「あなた守村直貴と同じクラスの子でしょ? 私あの子の姉で美保って言うのよ、よろしくね」
「お、おと、弟!?」

 直貴、お前なんつーお姉さん持ってんだよ!!

口から突いて出てきそうになった言葉をなんとか押し込めた。

 なるほど、ここに来たがらないわけだ。

 樹がコーヒーを淹れて会長の隣に置くと、それが当然のように何も言わずにカップを受け取っている。
 理事長と同じ雰囲気がする。

 気が強くて、ともすれば高飛車に映ってしまいそうな性格をしていそうな、自分が関わらない分には面白くていいのだが、一旦捕まると厄介すぎる姉がいるところに出向きたくない気持ちはよく分かった。

「それでね、文化祭であなたがセーラー服着てるところの写真を直貴に見せてもらってから、ずーっと会いたいと思ってたのよ」

 記憶を呼び起こせば遥か過去のようだが、日付を辿れば僅か数ヶ月前のこと。
 そういえば直貴に頼まれて一枚だけ大人しく写真を撮らせた、ような気がする。

「えーちょっと待ってよーほらこれ!」

 携帯電話の画面を見せられ、そこに堂々と写っている自身に脱力した。

「なおきー……」

 これはもう昼ご飯だけでは済まされない。
 直貴の姉とはいえ、見ず知らずの人に自分の画像が流出していたのだ。
 悪用される恐れを考えれば、なあなあで終わらせるわけにはいかない。

「パシリ券十枚綴りも追加だな」
「我が弟ながら使いやすいわよー」

 美保に使われる事を思えば、俐音などお願いの域を出ないだろう。
 この人に免疫があるから、俐音が幾ら我が侭を言おうと気を悪くせず付き合ってくれていたのかと納得できた。

「うん、なんつーか兄弟校に兄弟がいっぱいなんだな」
「あはは! 変な事言うのねぇ」
「兄弟で同じ学校に通うのは嫌だって思ったり女の子は第一行けないけど、親としては有名な私立に行かせたいでしょ。だから多いんだよ」

 丁寧に説明したのは樹だった。
 同じ学校が嫌だというのは本人のことか。響とは別の学校の方がいいと。

 見上げれば笑っている樹を薄ら寒く思った。
 響は気にするなと言っていたけれど、無理な話だ。

 俐音は既に樹からの挑戦状を受け取っている。



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