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 利発そうな瞳が真っ直ぐに見つめてくる。
 でも見つめてくるだけで、一向に動こうとしない。

 えーと、私の思いやりと手の行方は……?

 無意味に握ったり開いたりを繰り返しながら手を引っ込める。

 少女は気まずそうに視線を逸らした俐音を、キッと睨みつけた。

「誰だ貴様」

 しげしげと観察された直後に、思ったよりも低い、というか感情の籠もらない声で話しかけられた。

 一人で立ち上がって服の汚れを払い、また睨んでくる。
 実に堂々としている姿は数分前に転んでいた人物だとは到底思えない。

「あ、鬼頭です。第一から書類届けに……」

 説明の途中で彼女は素早く俐音から離れた。
 しかも物凄い形相で身構えている。

 何なんだこの子、と関わらない方が良かったかもしれないと思いながら下を見て、はっとした。

「ち、違う違う! このカッコは俺の趣味でやってるんじゃないんで!」
「………」
「マジで! ていうかここの生徒会長さんの陰謀で……」
「なんだ、会長命令か」

 警戒を解いた少女は、幾らか表情を和らげた。

「私は早川。そうだ鬼頭、お近づきの印にそのジュースはあげよう」
「ありがとうございます……?」

 手に持っていたサイダーを指す早川に、俐音は戸惑いながらも一応礼を言った。
 開けたいと思っていたが、欲しいわけではない。
 まさかこんな形で押し付けられようとは。

 実は生徒会のメンバーだという早川に連れられて着いた部屋の重厚なドアをノックすると、「入りなさい」と高圧的な女の人の声が中から聞こえてきた。

 普通は早川が開けるものではないのだろうか。
 俐音が先に部屋に入るのは少しおかしいと感じながらも、くいと顎でせっつかれては開けるしかない。

「失礼します。あの、第一から来たきと……」
「きゃぁーっ!!」
「げふっ」

 俐音の自己紹介を遮って誰かが絶叫したかと思うと体当たりされて、それがあまりに突然だったもので受身も取れず呆気なく後ろに倒れこんだ。

 尻餅をつく! と衝撃を思ってきつく目を閉じたんが、背中に何かがぶつかっただけで床に激突はしなかった。

「大丈夫?」
「い、樹……!?」

 力いっぱい抱きついてくる女の人を支えつつ後ろを振り返れば、以前と変わらず優しげに笑う樹がいた。

「離してあげないと苦しそうですよ」

 苦笑混じりに、俐音に全身預けている人に言う。

「あらぁ、ごめんなさいね。つい興奮しちゃってー」
「い、いえ……」

 近い近い近い!
 しかもいつの間にやら腰に移動していた手がまさぐるような動きをしていて、ゾクリと肌が粟立った。



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