違える意思



 ニコニコと笑う安部に渡されたのはどこかで見たことのあるような制服だった。

 白のシャツと、クリーム色のセーターに黒のブレザーはこの学校のものと同じ。
 だけど、赤と黒のチェックのリボンに、それとお揃いのスカート。

「まさかこれ着ろとか言わないよな」
「着るんだよ」

 顔色を変えずに安部は明るく言った。
 第二高校に行く事になった。けれどどうしてこれ着なきゃいけないのだろう。

 別にこのままでいいんじゃないのか。

 そう問えば、ばつ悪そうに眉を下げ、なんともふざけた理由を返された。


 春に第一と第二の合同でイベントをするのだそうだ。その打ち合わせがしたいから第二に来いと、向こうの生徒会長に再三求められていたのだが、面倒なのと皆の押し付け合いが上手く纏まらなかったのとでずっと放っておいたらしい。

 すると相手がついに業を煮やし、早急に一人寄越せ、さもなくばどうなるか分かっているだろうなと脅しをかけてきた。

 しかも罰として、この女子の制服を着て来ないと赦さんと罰までつけてきたという話だ。

「馬鹿! お前ら全員馬鹿だ!」

 相手もな!
 どうして罰だとか、そういう方向に話を持って行きたがるのか。

 こんな訳の分からない理屈を捏ねる人がいるところになんて行きたくないと全員が思うのも当 然で、俐音もそっと制服を机の上において生徒会室を立ち去ろうとした。

 だが皆の予想内のその行動は、ガッチリと腕を痛いくらいに掴まれて阻まれてしまった。
 腕の先には切羽詰まった様子の篤志。

「頼む鬼頭! この通り! 俺らを助けると思って……」
「助けたくないです。正直に謝って盛大に怒られて来てくださいよ」
「おまっ、アイツの怖さ知らないからそういう事言えるけどな。マジで鬼のようだぞ!」
「そんな人の所に可愛い後輩を行かせようとしないでください」
「いや、鬼頭なら大丈夫だ。これ着ていけば」

 全くもって嬉しくない事を言い放ち、巧がまた俐音に制服を押し付けた。
 直貴はずっと哀れみとも罪悪感ともとれる表情で見守っているばかり。

「本当に嫌なんですけど」
「若い頃の苦労は買ってでもしろ」
「返品お願いします。クーリングオフ期間内ですよねって言いたいところですが」

 一度引き受けた事だ、とも思う。
 我ながら変なところで真面目で困ると俐音は自嘲気味に笑った。

「みんな優しい俺に感謝してくださいね」

 多少、陰鬱な気分になりながら女子生徒用の制服を身に纏い、一階のリビング降りた。

 焦点が合っていない目で食器棚の一点を見つめたまま機械のような動作で食パンを齧っていた菊は、俐音を見てまた棚に目を戻し、慌てて俐音に向き直った。

「ど、どうしたんデス?それ」
「第二高校に行くのに、罰で着ろって言われて」

 端的過ぎる説明に菊は「はぁ」と生返事をし、暫く黙り込んだ後、立ち上がって電話の受話器を取った。
 俐音は気にせず支度を続ける。



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