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「直貴どうにかしろよ。この人達このまま放っておいたら学校生活が大変になる」
「俺がどうにか出来ると思うか?って、どさくさに俺のコーヒー飲むなよ。目の前に自分のがあるだろうが」
「だって俺のはもう冷めた」
「淹れ直せ!」

 結局、直紀に淹れ直してもらい湯気がモクモクと上がるカップを両手で持って息を吹きかける。

「あれ、俐音って猫舌?」
「勝手に名前で呼ぶな」

 俐音の中で既に油断ならない奴と認識済みの安部を睨んで威嚇する。
 壱都の友達だからといって気を許してなんかないんだというアピールも兼ねてだ。

「自分だって安部って呼び捨てしてるでしょ。敬語もなんでかオレだけ使ってくれてないし」
「それは特に意味はないんだけど。なんか正直言うとメンドイ」
「あらら」

 別にいいんだけど、と笑う阿部はやっぱり気を許せないと思った。
 どこか笑顔が貼り付けたような、面のようだ。

 以前穂鷹が、本心を隠すために無理に笑ってたのとはまた違う。
 まるでその表情しか知らないみたいに。

「安部って壱都先輩の友達って感じ」
「似てるって事?」
「まぁ精神構造がややこしそうって意味では」

 本人達の意識では一本道の筋が通っているのだろうが、他人からすれば通り方が分からないほど捻れうねり、最早道とは言えないような構造をしている。
 二人にはそんなイメージが俐音にはあった。

 所詮誰しも心の内など他人の尺では測れないものだとは言え、二人は酷い部類に入るだろう。

「話がズレたけど。安部って呼び捨てにしても敬語使わなくてもいい代わり、一つ頼まれ事してくれないかな」
「嫌です安部先輩!」
「断ったらバラすよ」

 その脅しに安部は俐音が女だと気付いていたのだった事を思い出した。

 訊いておいて決定事項か!
 直貴は対処できないと苦笑するだけだし、篤志と巧は我関せず。

「一応話だけ聞くは聞く」
「うん、来週に第二高校の方にちょっと行って欲しいんだ。俺ら旅行中だから代わりにね」
「直貴に行かせろよ」
「守村でもいいんだけど」
「俺は無理!」

 直貴は左右に勢いよく首を振って慌てて辞退した。
 それは俐音とは違って面倒だからという理由ではなさそうだ。
 第二高校とはそんなにも必死で拒否するほどに行きたくない場所なのだろうか。

「も、もう一人いるんだよな、そいつに……」
「あれも無理。三日あっても目的地に辿り着けないと思う」
「どんだけ方向音痴なんだ!」
「究極」
「どうやって生活してんだよ!」

 役に立たず!
 俐音は未だ見たことのない最後の生徒会メンバーを罵り、そして諦めた。

「分かった……。行きゃいいんだろ」

 諦めが良いのは時として短所となりうる。
 いつも先に折れてしまうのは、本気で困っている人の頼みは断れない性分だからだ。

 こうなれば遠足にでも行く気分で楽しむしかない。
 無理にでも思考を変えて楽観視する方向へと持っていった。


 予期せぬ再会と出会いに少しだけ期待を寄せる

 俐音はこの時まだ来週に起こる波乱を予想すらしていなくて

 そして水無瀬第二高等学校という場所を甘く見すぎていた



end



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