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「これで全員?」
「いいや。一年がもう一人いるけど、そいつは迷子」
「……という事はたったの五人なのか」

 迷子、と聞いた瞬間に俐音は疑うような表情をしたが、そこに突っ込んでこなかったのは普通なら出てきそうにない単語だから、関わらない方が良いと思ったからだろう。懸命な判断だ。

「だから仕事が回りきらなくて、事ある毎にこっちまで書類が流れてきてたんだな……」

 人を増やすなり、教師の仕事にするなりして、その辺りをもっと改善してもらいたいものだ。

「ていうか当然のように俺が作業させられてるのおかしいですよね、善意で十分手伝ったんでもういいですよね?」

 もう授業はとっくに始まっているし教室に戻りたい。
 腰を浮かせた俐音を篤志が押し戻す。

「そう言うなよ。大勢でわいわいやった方がいいに決まってるだろ? 授業なんかタルいだけだって。なあ守村?」
「へ? あー、ほら来週から先輩いないし今のうちに片付けとかなきゃいけない書類多いんだ。悪いけど手伝ってくれ。今度昼ごはん奢るから」

 面倒くさい。そう顔に書いてある俐音を説得する役を任されてしまった直貴は必死だ。
 最後の言葉に少し動揺したのを見逃しはしなかった。

「プリンもつける!」
「よし乗った」
「安いなお前!」

 いつもは仏頂面で常に周囲を威嚇しているように見える篤志だが、こうして笑っていると案外幼い。

「あっつんさんとみぃさんは緒方先輩達と仲良いんですか?」
「何だ、そのあっつんさんって。逆に本名より長くなってるし」
「じゃあ篤志先輩でいいです、別に」
「あっつんさんがいいのかよ、どこら辺が気に入ったんだ」
「可愛いじゃないですか」

 俐音が口を尖らせて横を向くと、安部が笑っていた。

「二人とも緒方と同じクラスだしね」
「安部と違って俺らは緒方と仲いいぞ! 修学旅行のグループも一緒だから」

 篤志と巧、緒方と小暮という組み合わせを想像して、俐音は悲痛な面持ちで口に手を当てた。

「小暮先輩ご愁傷様です……」
「大丈夫だ。あんまり暴挙が過ぎるようなら容赦なく警察呼んでいいって言ってある。会長権限で許す」

 あまり想像したくはなかったが、きっと大変な旅行になるのだろう。
 その場に居合わせる事がなくて本当に良かったと心から思った。

 帰ってきたら話を聞かせてもらおう。

 小暮の苦労を笑いのネタにしようと算段をつけながら、纏め終えた冊子を整えるために、机にトンと当てた。

「じゃあ次これな」
「一体どれだけやらせる気ですか!?」
「こんなもの氷山の一角だ。今度守村に奢ってもらう昼ごはんのカロリーを消費すると思ってやってくれ」
「カロリー前払い!?」

 なんて無茶を言う人なんだ。
 無理難題を押し付けてくる巧を、初めは常識人だと間違った認識をしていた自身を呪った。




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