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 緒方が気遣うふりをして穂鷹の肩に手を置いた。
 折角労わる表情を作っているのに口元が笑っていて全てをぶち壊している。

「ほーちゃん」

 ひらひらともう片方の手に持った財布を左右に振る。
 それは緒方のものではない。

「とってこーい!!」
「なんでオレの財布ー!?」

 叫ぶと同時に穂鷹は駆け出した。
 数メートル先で見事キャッチするのを見て緒方が無邪気に手を叩く。

 響は樹とこんな風になりたいのだろうかと思うと、やめとけと言いたくなる。

「……緒方先輩」
「なぁに」
「以前に響と穂鷹のどっちを選ぶかって訊きましたよね」
「ああ、うん」

 あれから随分と考えさせられた問いだった。
 二人とも大事な友人で、どちらも欠けてほしくなくて。

 もし本当にそんな事態に陥ったらどうしよう。

 彼らの新たな一面に触れるたび、嬉しくて今度こそ離れたくないと思うのに。

「私は……どっちも選びません」

 どっちかなんてそんなもの決められるはずがない。

「みんなバラバラになっちゃっても?」
「はい」

 俐音の答えは緒方には意外だった。
 いつも三人一緒であろうとするのは俐音なのだ。

 あまり詳しく俐音の過去を聞いていないが、それでも独りになる事への恐怖みたいなものは窺える。
 だからその選択はしないとばかり思っていた。

「私じゃなくて、二人が私を選べばいい。そしたら誰も欠けない、でしょ?」

 そのための努力をしよう。
 穂鷹と響が俐音を必要としてくれるように。

「リンリンは欲張りだねぇ」
「幸せになる為の努力は怠るなって昔言われたことがありまして」
「俺が幸せにしてあげる」
「い!? ちと先輩いつから……」

 俐音の手を取って微笑む壱都は一体何時の時点からそこに立っていたのか。
 気配の消し方が尋常じゃない。

「なんかイッチーの不戦勝って感じ?」
「戦わずして勝つのが本当の勝利」
「なんでさっきから勝負事にしようとしてんですか」
「それよりみんなは?」

 俐音の疑問を真っ向から無視した緒方に白い目を向けるも、それさえ気付かないふりをされる。

「お昼ご飯食べるとこ捜してる」
「私も捜す!」

 走り出そうとした俐音の肩を緒方と壱都が同時に押さえた。

「俐音そのおみくじ括り付けないと」

 手に持ったままのおみくじの紙を指す。

「もうそれどころじゃ……」
「幸せになる為の努力はどしたのリンリン」
「あ……そっか、めんどくせ」

 早くしないと、と焦りながら木に括り付ける。
 そして最後にパチンと手を合わせた。

 今年は去年よりもどうか更に良い年になりますようにと願いを込めて。





end



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