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 俐音も響も血の繋がった家族との縁が薄い。
 けれど俐音には菊がいる。だから響も、そう考えたのだ。

 響は暫く俐音を見据えてから大きく溜め息をついた。

「マジで何言われたんだか……」

 強かな弟が何を吹き込んだか知らない。
 俐音が警戒するのではなく、相手を拒む意思を見せるのは珍しい事で、きっと禄でもない話だろうと見当をつける。

「俺は別に嫌じゃない、樹との生活はそんな悪くないって思ってる」
「でも……!」
「だから、あいつもいつかそう思えるようになったら成功だな」
「成功って」

 失敗とか、そんな問題だろうか。
 訝しげに響を見上げると、くしゃくしゃと髪をかき回された。

「馨と穂鷹見てたら羨ましいだろ、ああいうの」

 彼等は厳密には兄弟ではないけれど、二人の距離間は心地良い。
 同じようになれなくても、関係改善くらいは図りたい。

 そこにあるのは強い意思。
 響も穂鷹も壁を乗り越えようとしている。
 俐音が作った逃げ道に頼ろうとしない。

「……私は響だって十分羨ましい」
「あ?」
「いや。響がいいなら、さっきの話は無しって事で」
「あー! どこに行ったのかと思ったらこんな所で密談!?」

 突然響の背の向こうから緒方の声がした。
 顔を横にずらせば他の皆も来ていた。

「すみません、響にカツアゲされてて……」
「お前金持ってないだろうが」
「俐音ちゃん大丈夫? 何もされてない? 取り敢えず響はシメとこうね」

 俐音の身体を一通りチェックしながら穂鷹には珍しく物騒な発言を笑顔で吐いた。

「どうしたんだ……? えらく男気たっぷりじゃないか」
「男気の定義を間違えてるぞ。鬼頭」

 男気が何たるかを小暮が俐音に教えている間に穂鷹と響は静かに言い争いを繰り広げていたらしく、更に緒方が二人を煽ったりして随分と賑やかだ。

 回りの人の迷惑になる、と思いながらも楽しそうだという誘惑に負け俐音も混ざろうかと一歩踏み出したが、後ろから伸びてきた腕に拘束されて立ち止まる。

「壱都先輩?」
「同士討ちをさせて獲物を横取るのが鉄則」
「はい?」

 俐音の頭頂部に顎を乗せて喋るから何だか気持ちが悪い。
 しかも言っている意味がよく理解できなかった。

「穂鷹と響は放っておいて一緒におみくじ引きに行こうって事」
「そ、そういうこと?」
「うん、そう」

 手を引かれてその場を離れようとした俐音に気付いた穂鷹が大きな声をあげて付いて来て、結局は皆で行く事になった。

 壱都が舌打ちしたのを俐音は聞き逃さなかったが、そこには触れずにいた。

 さっきも引いたが、あまり良い結果ではなかったらしい緒方とおみくじを引き、それを木に括りつける。

「二度目の末吉おめでとうございます」
「ありえないよね、僕のこの一年どんだけ吉少ないの?てかね、リアクション取り難いの。『末吉?あーまぁいいんじゃね? 凶じゃないしさ』みたいな曖昧で適当な慰めが返ってくるのがムカつく。『ま、オレは大吉だったけど?』みたいな」
「オレそんな言い方してないよ!」
「あ、穂鷹が言ったんだ」
「違うから、俐音ちゃん言ってないからね!?」

 や、別にどうでもいいんだけど。
 冷静に返せば穂鷹はショックだと言わんばかりに落ち込んだ。



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