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 思っていたよりも早く順番が回って来て食べ終わるのとほぼ同時。

 次におみくじを引こうと巫女さん達がいるいる方へと歩く途中、俐音は響に腕を引かれてよろけながら建物の脇へと連れて行かれた。

 何だろうと、きょろきょろと辺りを見渡す。

「樹になんて言われた」

 前置きも無く、突きつけられた本題に目を剥く。
 お参りをするまでの雰囲気を残さない響の瞳の鋭さに、知らず後退りをした。

「別に何も」
「自分が嘘下手だって知らないのか」

 あっさりと見抜かれ俐音は口を閉ざす。

 だって何て言えばいい。
 樹は響の事嫌いだったなんて言えるはずがない。
 敏い彼だから気付いているだろう。それでも俐音から伝えられない。

「気にさせて悪かったな」

 思わぬ響からの謝罪に呆気に取られた。

 なんで響が謝るんだ。
 普段なら絶対に悪いなんて言う人じゃないのに。

 樹が弟だからか。響が兄だから。

「ほら……ほらな、やっぱりじゃないか」

 響はこんなにも樹を受け入れているのに、許しているのに。

『兄ちゃんっていうのはな、そういうもんだ』

 怜夜の言った通りだ。
 なのにどうして樹は頑なに響を拒絶するのか。

 笑ってありがとうと言える仲にどうしてなろうとしない。

「泣くなって」

 変に思われるだろうが。
 そう言われて自分の目に涙が溜まっている事に気付いた。

 脇道で人通りは疎らとはいえ俐音達以外にも人はそれなりにいる。
 あからさまな目線を送られれば居心地が悪い。
 これではどう見ても響が泣かせていると勘違いされてしまう。

「ご、ごめ……」

 目を擦ろうとした俐音の手を取る。

「化粧」
「……あ」

 わたわたと慌てる俐音を眺めながら、こんなに手のかかる奴だっただろうかと思う。
 しっかりしているように見えて頼りないのは知っていたが。

「なんでお前が泣いてんだか」

 口は悪いしあまり感情を表に出さないのに、泣き虫である事も知っている。
 それでも、自分の問題でこうやって涙を流してもらえるのは嬉しい。

「ひびき……響」
「あ?」
「一緒に住もう」
「は!?」

 冗談を言う雰囲気ではなかったし、俐音が真面目である事はその顔を見れば解る。
 どうしてそういう方向に話が進んでしまったのか。
 そもそも俐音は自分の発言の意味をきちんと理解しているのかも怪しい。

「ちょっと待て、俐音おまえ」
「菊と私だけじゃあの家大きいし、まだ空き部屋あるから来ればいい」
「あのな! お前の話はいっつも肝心な部分が抜けてる。何でそういう流れになるんだ」
「……樹とあそこにいるのは良くないと、思うから」

 内心では疎んじているのに、表面だけ取り繕うように笑顔を浮かべる人との生活は少量ずつ毒を盛られているような感覚を伴う。
 じくじくと膿が広がっていく錯覚に陥る。



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