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 鏡を見れば左耳の上に一つにまとめられた髪は普段とは全く違い背中に届くほど長い。

「わぁ髪の長い俐音って久々に見た」
「あら俐音ちゃんって前まで長かったの? ……なんだか勿体無いわね」
「ですよね」

 彩と高奈が「ねー」なんて仲良く首を傾げ合っているのに疎外感を感じた。
 何か勿体無い事でもあっただろうか。

 以前長かったのは、ただ単に伸びていただけだったから切るのに躊躇いはなかった。

「それより彩だろ。小暮先輩見たら喜ぶんじゃないの?」
「どうなんだろう」

 いつもは櫛で梳かしただけの自然体だが、分け目も変えて綺麗に整えてもらっているから印象も違う。
 薄く化粧までしてもらってる。

 俐音が自信が無いらしい彩を引っ張って店の外に出るといつの間にか全員が集まっていた。

「うわっ髪長い! 俐音ちゃん女の子してる!!」
「いつだって女ですけど!?」

 ブーツのヒールで失礼な事を言う穂鷹の足を踏んでやる。
 まったく、と鼻を鳴らしながら少し離れた所にいた小暮を見れば、優しく彩の髪に触れながら楽しげに二人で会話をしていて。

「なんか私と扱いが違う……」

 そして周りを取り巻く空気が違う。
 その差に打ちひしがれていると、ウィッグの髪がサラリと持ち上げられて壱都がそれを唇に押し当てた。

「俐音はこういうスキンシップが好きなの?」
「違います! 別物です。小暮先輩のと何かが全く違います!」

 壱都の気障ったらしい行動に、俐音は慌てて髪を引いて離れた。
 普段はこんな事をする人ではない。
 俐音の反応を見て楽しんでいるのだ。

「というか、壱都先輩って実家に戻ってたんじゃ?」
「昨日こっちに帰ってきた。一瞬親の顔見たからもういい」
「チラ見!? 親の顔チラ見でいいんですか!?」

 コクリと無言で頷いた壱都に何と返せば良いのかとぐるりと左右へ目を配る。
 そこで先ほどから一言も喋ろうとしない響と目が合った。
 だが彼にすぐ逸らされ、これもまたいつもならありえない。

「リンリンあけましておめっとー」
「おめでとうございます、これ今日初めて言いました」
「やーねーもうみんな日本人の風上にも置けないよ」
「緒方先輩も人の事言えた挨拶じゃなかったで……す、いえ嘘です」

 ん? と聞き返してきた緒方の周囲の温度が下がったのを敏感に察知した俐音はすぐに訂正を入れた。
 正直すぎる自分の口が憎い。

 怯える俐音に、本当に怒っているわけではない緒方は満足そうに笑う。

 自分が欲しい反応を素直に返してくれるのは俐音と穂鷹くらいだから、ついついからかってしまうし、そして思ったとおりになると嬉しい。

「……これつけ毛か?」

 いつの間にか俐音の後ろへ来ていた響は髪を一房持ち上げてしげしげと眺めている。

「うん。さすがの私もこんな短期間でここまで伸びない」
「さすがって何だよ」

 余程珍しいのか、食い入るように観察している響に、そういえば文化祭のときも同じような事をしていたと思い出す。
 髪の長さでそんなに印象が変わってくるものなんだろうか。

「変か?」
「は? いや別に」

 そう言って髪から手を離した響に「ならいいけど」と釈然としないながらも会話を打ち切った。

「気の利かない奴だよなぁ響って」

 やれやれと呆れる穂鷹は肩を組む。
響は鬱陶しそうな顔をしたが、舌打ちをしただけにとどめた。




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