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「とにかく、お前がメンバーに入るのはすでに決定事項なんだ。断ったら退学だぞ」
「―――は? な、な、何だそれ!?」

 優雅に足を組んでソファに座っている神奈に掴みかかる。

「さっそくなんだけど柔道部が……」
「話を勝手に進めるなぁ!」
「これ結構愉しそうな仕事だよ」
「愉しそう? ……いや、やっぱしない!」
「今ちょっと気持ち揺らいだでしょー」

 違う、と言い返しても説得力などまるでない。
 事実愉しいのかと思ってしまったのだ。

 だけど俐音は簡単には頷けない。面倒な事はしたくなかった。
 女だと気づかれる可能性を増やしたくないと思うのは当然だろう。


 そもそも、理事長が何を考えて俐音にこんな事をさせようとしているのか理解出来ない。

 知らないはずはないのだ。
 俐音が女であると解っていてこの学校に通えるようにしてくれた人が、どうして。


 まだ渋る俐音に神奈はため息をついて携帯電話を取り出した。

 数回のコールの後に出た相手と二、三言会話をしてから、それを俐音に差し出す。

 俐音は今の流れでいくと電話の向こうは理事長だろうと考えて少し緊張しながら受け取った。

「鬼頭です」
『学校生活はどうデスかー?』
「……は? え、菊!? なんでお前」
『何でだと思いマス?』
「ウザッ」

 まさか菊に繋がるとは考えていなかったので驚いたが、それ以上におどけた態度に腹が立って電話を切ってやろうかと思った。

『え……? 今ウザいって』
「言ってない黙れ。用件があるなら早く言え」
『はは、矛盾してマスよー』

 多分、これが電話でなく面と向かって話していたとしたら殴っていただろう。

 家に帰っても怒りが収まっていない場合はそうしようと決めて、取りあえず今はどうして菊が出てきたのかを聞く事を優先した。

「菊、今晩絶食したいの?」
『調子に乗りすぎマシた……。なんというか、あれデス。大丈夫デス』
「なにが!?」
『佐和子……えーと理事長さんに聞きマシた。楽しそうじゃないデスか。ぜひ参加させてもらいなサイな。それにいざという時に守ってくれるお友達さん作っておかないと

 いざという時とは、女だとバレた時。
 守ってもらうにはまず、彼等に自分の事情を説明しなければならないという事だ。

 そこからしてまずもう無理だろ。
 菊はいまいちこの状況を解っていないんじゃないかと、額を手で覆う。

『その子達なら信頼出来るって。そういう子達を集めてるからって理事長さんが』

 さっきまでとは違い落ち着いた口調で言われて、俐音も静かに周りを見回した。

 この人達なら私を受け入れてくれるんだろうか。

 何の説明もないままに入学させられた先が男子校で、自分の性別を詐称するはめになった俐音には不可抗力でしかなかったが、今この時点で完全に彼等を騙している事になる。



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