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「緒方先輩! 卵買ってきましたよ」
「あー良かった良かった。リンリンの初めてのお使いに卵は難易度が高かったかなぁって話してたとこなんだ」
「馬鹿にしまくってたわけですね」

 コンセントからコードを抜くと、大きな液晶テレビの画面が真っ暗になり、話に混ざっていなかった響と壱都が非難の目を向けた。

「何よその顔。一日中ゲームばっかりして! ちょっとは家のこと手伝ったらどうなの」
「どこのお母さん?」
「テレビでやってた」
「どんな番組だ」

 コードをくるくると回す俐音に響が溜め息を吐く。

「んで、樹どこ行ったんだ」
「……用事あるからってそのまま行った」

 声が硬くなってないだろうか。
 変に思われないようにと妙に緊張しながら言葉を選ぶ。

 響が「聞いてないな」と顔を顰めたのに体が震えそうになった。

「樹もいろいろあるんだよ、もう高一ともなればさぁ」
「そうなんだよ、どこかの誰かさんみたいに途中参加な人もいれば、途中退場もあるもんさね」

 穂鷹の料理に見入っていた彩は、突然振られた会話にあたふたと周囲を確認して小暮の後ろに隠れた。

 この中で注目を浴びれば、それは弄られる事を意味するのだと既に学習しているからだ。

 その様子を見て穂鷹が最後の皿をテーブルに置きながら笑う。

「まーいいじゃん、樹も大人の階段駆け上がってるって事で」
「お前が言い出したんだろうが、よくもネタのポイ捨てが出来るもんだな」
「モッタイナイは世界共通語」
「だからどうした」

 豆知識を披露した壱都を響が冷たくあしらう。
 訳の分からない方向に行き出した話題に俐音が安堵していたのに気付いた人はいない。

「私等は私等でさっさと見ず知らずの人の誕生日を祝おうじゃないか。お腹空いて死にそう」
「結局そこかよ」
「穂鷹が美味しそうな料理を作りすぎるから」
「新婚の幸せ太りの言い訳みたいなのはやめろ」

 響のツッコミは内角を抉る様で嫌だ。
 呟く俐音の頭を撫でる壱都を見上げると、ふわふわとした笑みを浮かべていた。

 彼にはもしかしたら、バレているかもしれない。
 けれど何も手を出そうとしないのが壱都だ。
 それならば問題はない。

「そいじゃパーティ始めよっか」
「リンリン後でケーキ焼こうね」
「この部屋を甘ったるい香りでジャックしてやりましょう」

 つくづく思う。
 俐音は彼らの事を何も知らないのだと。

 知りたいけれど、いつまでも彼らと共にいられるわけではないと一線を越えられなかった。
 越えてしまって後戻りが出来なくなる方が怖いから。

 でも、そんな弱気なことを言っていては樹に負けてしまう。

 売られたケンカは買った上で、倍額で買い取ってもらおうじゃないか。

 一人俐音は決意を新たにした。




end



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