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「何で、響の事好きじゃないのか……? 一緒に住んでるのに」
「好きじゃないから一緒にいるんだよ、分からないかな」

 分かってたまるか!
 叫びそうになるのを必死で抑え込む。

 血の繋がりがない、赤の他人だった菊との生活を疎んじたことなど一度もない。
 なのにどうして。半分は兄弟なんだろう?

 そればかりが全てではないと承知している俐音でも、樹の言い分は理不尽に感じられた。

「すぐ傍で、同じ顔した人間に自分よりも優れている部分を見せ付けられるっていうのは気分良くないよ」

 より優秀な方しか必要とされていない環境ならば尚の事。
 自分はこのまま行けば捨てられてしまうのだという恐怖は日毎に増してゆく。

「けどね、必死で縋り付いて足掻いて手にしようとしたものを、要らないって捨てるように押し付けられた時が何より惨めだった」
「それは感じ取り方の問題だろ、別に響は」
「あの人に悪意も他意も無かっただろうね、でも肝心なのはその俺の感じ取り方でしょ? 気に食わなかった、だから同じような思いをさせてやりたい」
「間違ってる」

 うん、そう生まれたときからね。
 兄と同じ顔が歪んだ。

 この表情を響は見た事があるだろうか。
 どう思うだろう。

「こんなの……」

 間違ってる。ほとんど吐息としてしか出てこないくらいか細い声は樹には届かない。

 遠い過去、俐音より幾らか遅れて施設に入って来た彼らと共に行動し始めたばかりの頃。

 食事もきっちりと管理されていた生活の中で、たまに配られる僅かなお菓子は俐音には貴重なものだった。

 親といたときには普通に食べていたものだったが、自由に手に入らなくなるとチョコレート一つでも大事なものに思えてくる。

 そんな俐音に、少しだけ年上だった彼らは笑いながら自分達のお菓子を与えた。

 いらない、私はもう食べたから。みんなの分が無くなると返せば笑って言ったのだ。

『兄ちゃんっていうのはな、そういうもんだ』

 一人っ子だった俐音にはその理屈はいまいち飲み込み難く、ぱちぱちと目を瞬かせながら再度手に乗せられたお菓子を見た。

 ただ解ったのは、要らないから渡されたのではないという事。
 何で? どうしてくれるの。
 そう問えば頭を撫でられた。

『うーん、説明すんのは難しいんだけどなぁ。でも……そのお菓子を俐音が美味しいって喜んで食ってくれたら俺は嬉しい』

 貰って嬉しいのは俐音のはずなのに。
 やはり不思議な言い分で、納得できずに考え込んでしまった。

『あー悩むなって! こういうとき妹はな、遠慮なんかしないで素直に「ありがと」って言っときゃいいんだよ』

 たったそれだけで十分なんだ、と

 響も同じなんじゃないだろうか。
 なのにどうして樹は素直に受け取らなかったのか。
 惨めだなんて思う必要ない。



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