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 穏やかに微笑んで、俐音が荷物を持っていれば何も言わず代わりに持ってくれて、道路は当然のように車道側。

 寒いでしょうと言ってマフラーを差し出す。
 響と違って目に見えた優しさを出す樹。

 けれどどうしても俐音は違和感を拭えなかった。
 勘違いかとも思ったがやはり。

 無言で見据える俐音に、樹は困ったように眉を下げた。

「あれから俺達のこと何か教えてもらえた? 兄さんが本妻の子で俺が愛人の子だってことは? どうして一緒に住んでるのかな、とか思わない?」
「樹! 前にも言った。お前の口から聞きたくない」
「俺も言ったよ、兄さんは絶対に教えないって。それって俐音のこと信用してないからかもしれないね」

 ぐっと俐音が押し黙った。
 唇を噛む彼女の頬に手を添える。

「いつも一緒にいるのにおかしいよ。穂鷹達には言ってるのに」

 嘘、彼らだって知らない。
 知っていたら、特に穂鷹が普通に接してくるわけがない。
 もっと腫れ物に触るように、気を遣ってくるはずだ。

 だけど今の俐音はそこまで頭が回らなかった。

 そっと手で包み込むように撫でた。

「俺ならそんな事しないけどね。俐音が信用できる子だって分かるもの、隠し事なんてしないよ」

 俐音は目を見開いて樹を見上げた。
 そのぶれない瞳を樹も見返す。

 どのくらいそうしていたか、先に目線を外したのは俐音だった。
 樹の手から逃れるように一歩後ろに退く。

「忘れてた……」
「何を?」
「最近ずっと響や理事長しか見てなかったから。そうだ、こんなんだったよな水無瀬って」

 まるで薬のように甘い言葉で包んで、苦い真実を隠そうとして。
 含んだ後で気付く。それは毒になるほどの劇薬だったのだと。

 樹の言が、表情が呼び起こさせた。
 名字が違っても確かに樹は水無瀬だ。

「大っ嫌いだ、虫酸が走る」

 痛いくらい両の掌を握り締めた。

 何度思ったか知れない。大嫌い、ずっとずっとこの気持ちだけは変わらない。

 睨みつける俐音を樹は見返した。
 嫌いだと面と向かって言われたのはこれが初めて。

 自分のどこに落ち度があったのか会話を交わした短い時間を調べても思い当たる節はない。

 けれど以外にも不快ではなかった。
 彼自身、俐音に向ける感情など無いに等しいからだろうか。

「俺の何を分かってそう言う?」
「……響のこと、お兄ちゃんだなんて思ってないだろ」

 僅かに眉を上げた樹に、俐音は歯を食いしばった。
 当たりだ。

 兄さん、という言葉が余所余所しくて仕方なかった。
 他人行儀なのは彼らの特殊な家族関係のせいかとも思ったが、それにしては響は至って普通だ。

 なら態とだと思った。



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