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「そういや響は?」

 自分の客が来ているというのに弟に接待させて何処へ行っているのだろうか。

「きゃぁぁー!!」

 俐音が誰かから答えをもらう前に、別の部屋から叫び声が聞こえてきた。
 トーンは高いけれど、明らかに男の声質。しかも気が付けば忽然と姿を消していた緒方の声だ。
 

 ああもあからさまに「大変だみんな来て」と言わんばかりの叫び声をあげられては駆けつけないわけにはいかない。

 多分、行ってもガッカリしそうなのだが。

「どうしたんですか?」

 走らない程度に急いで声がした部屋へ行った。

「……何やってんですか」

 開けっ放しのドアから中を覗くと、すぐに目に飛び込んできた光景に俐音と穂鷹と樹は絶句し、壱都は笑っている。

 部屋の端に置かれたベッドの上で、緒方が響に組み敷かれていたのだ。

 それだけでも十分奇妙な光景だが、どういうわけか響の右手にはマジックペンが握られており、それを緒方の顔につけようとしていた。
 ぎりぎりのところで緒方が防いでいる。

「わー二人とも楽しそうだね」
「どこがよほーちゃん助けて! 額に『肉』って書かれちゃう!」
「先に書こうとしたのは馨だろうが。寝込みを襲いやがって……」

 舌打ちをして緒方の上から退いた響がペンにキャップをして机の上に投げた。

 元々寝起きの悪い彼に悪戯なんてするものだから更に不機嫌になってしまっている。

「だって起きないんだもん」

 悪戯が失敗して返り討ちにあった緒方は頬を膨らませて拗ねた。
 悪びれない所が実に緒方らしい。

 ふと俐音は部屋を見渡した。

 ベッドの他には机と椅子しかない部屋。
 机の上には、さっき響が放ったペン、横には学校にいつも持ってきているカバンが凭れかけられている。
 それだけしか目に付くものはなかった。

 そのままモデルルームにでもなりそうだ。

「見られたらギャーギャー言うくせに、堂々と見るんかよ」
「え?」

 振り向くと直ぐ後ろで響が着替えるために服を脱いでいて、上半身裸のまま立っていた。

「っ、ぎゃー!」
「お前が叫ぶ理由が分からん」
「着替えるならそう言え! 早く服着ろ寒いー!!」

 耳を塞ぐ響を指差して、半ば叫ぶように訴えると俐音は勢いよく部屋を飛び出した。
 俐音を置いてさっさとリビングに戻っていたみんなのところへと走る。

「響が逆セクハラー!」

 ソファに座る壱都に飛びついた。
 ご大層に泣き真似までするものの、全員が一笑して終わるという扱い。

 これ酷くないか?内心でそう思ったが、言い募ってみてもみんなの態度が変わるわけでなく。
 俐音は諦めて気持ちを切り替えるべく冷めた紅茶に手を伸ばした。

「リンリン何のケーキ作ろう?」

 結局事前に決められなかった事を訊かれて、リビングに入ってきた響を睨みながら「飛び切り甘いので」と注文をつけた。




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