兄弟のあり方



 高校に上がる二ヶ月ほど前の事。
 響と樹が住んでいるマンションへ彼らの叔母である水無瀬佐和子がやってきた。

 エントランスにあるオートロックからインターホンを連打し、不必要なほどけたたましく来訪を告げるチャイムを鳴らして。

「響、樹。久しぶりね」
「………」
「響……マンションから追い出すわよ」

 モニターで確認したまま居留守を決め込もうとした響に、カメラを睨みながらドスの利いた声で佐和子は脅しをかけた。

 部屋の様子は勿論エントランスからは見えないはずなのに、見事響の目論見を言い当てたのは流石だと言える。

「でもまぁ、用事があるのは樹の方なの」

 出てらっしゃい。腕を組んで尊大な態度でカメラの前に立つ佐和子に響は存分に顔を顰め、樹は苦笑いをした。

 一階に下りた樹に佐和子が言ったのは

「鬼頭俐音っていう女の子が春からあなたと一緒に水無瀬第二に入学するの。色々と事情のある子だから気をつけて見てあげて」

 というものだった。
 単刀直入に用件だけを述べた彼女はさっさと帰ってしい、多忙な身の上とはいえあまりに一方的で端的な訪問に樹は唖然としたのだった。

 それから幾らか経って結局「彼女は第一に入る事になったから」とまた突然樹に連絡が入った。

 女の子が男子校である第一に入っていいのかという疑問はあったけれど、理事長の佐和子が許可したのならいいのだろうと、樹は意識の中から鬼頭俐音という名前しか知らない存在を消した。

 消したとは言っても、その後至る所で彼女の名を聞いていたから忘れる事はなかったけれど。
 自分には一切関係の無い人物と文化祭で出会うまで、そう位置付けたまま過ごしていた。

 文化祭で見た俐音は、どうして男子校に紛れられているのかと疑問に思うほど普通の女の子で。
 彼女に対する響の態度も歴然としていた。

 その日から樹の中でもう一度、俐音の位置付けが変更される事になったのだった。





「ひろーい」

 ちょくちょく遊びに来ているらしい穂鷹に案内されて俐音が響の住むマンションの部屋を訪れて一番に口にしたのがこれだ。

「リンリンいらっしゃーい!」
「緒方先輩の家じゃないでしょ」
「寛いでね」
「いやだから……」

 すでに到着していた緒方と壱都が、まるで自分の家にでもいるようなほど寛いだ姿勢でソファに座っていた。

 どうして他人の家でそんなに我が物顔でいられるんだ。
 しかもここにこの部屋の本来の住人がいるというのに。

 ちらりと俐音達の飲み物の用意をしている樹を見る。

「樹、なんかごめん」

何 故か俐音が申し訳なくなってきて謝る羽目になっている。

「全然気にする事ないよ」

 壱都に呼ばれるままにソファに腰掛けた俐音に、紅茶の入ったカップを手渡しながら樹は笑顔を向けた。

 一瞬、あれ部屋が急に明るくならなかった? と思うくらいの眩しさを放っているように俐音には感じられた。
 まるで作り物のように完璧な笑み。



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