▼page.7 俐音は急いで立ち上がり混乱する思考で必死に言い訳を考えた。 「悪い、実は昨日の晩に父方の曽祖父の祖母が蜘蛛膜下出血で倒れて今からお見舞いに行かなきゃならないんだ」 「……その話が本当ならそいつ化けもんだぞ。見舞いになんか行ったら食い殺されんじゃないか?」 「普通に祖母だけにしときゃ良かったのに……」 「リンリン嘘下手すぎー」 皆それぞれ言うことは違うけれど、嘘だと即効でバレているという点は同じだ。 こうなったら逃げるしかない。 ダッシュしてドアノブに手を掛けるが、強い抵抗がありノブが下まで回らなかった。 「それは入るのも出るのも指紋照合で一致しないと開かないんだ。俺も初めて見たときはおもちゃだと思った」 「な……!?」 セキュリティ万全!? 金が有り余ってるからって、こんなところ無駄に凝った造りしてんじゃないとドアを思い切り叩いた。 「手伝わないからな! 俺はそんな事絶対しない!!」 「でもさぁ俐音ちゃん」 無駄な悪あがきだと分かっていながらも、ガチャガチャとドアノブを乱暴に回そうとしている俐音に、今まで黙っていた穂鷹がコーヒーカップに視線を落としたまま静かに言った。 「理事長さんからの頼み断ったらこの学校で生活できないよ? あの人めちゃくちゃ怖いんだから」 「は? 理事……?」 そういえばさっきから何度もその言葉が会話の中に出てきたような気がした。 理事長といえば俐音は直接会った事ないけれど、菊の知り合いでこの学校に入れるように手配してくれた人だ。 「全員、理事長に言われてやってんのか」 「いやぁ? 聡史と響くらいかな。僕なんか聡史に無理やり引き摺り込まれたんだよ」 「人聞きの悪い……誘ったんだ」 誰が誰に誘われたなんてどうでもいい。 俐音が知りたいのは、どうして自分がここに連れて来られたかだ。 コイツ等の独断なら意地でも突っ撥ねる、けどもし…… 「俺があの人からお前を無理にでも誘うように言われたんだよ」 これが聞きたかったんだろう? と神奈が的確な、けれど俐音の欲しくなかった答えを出した。 女の俐音を無理にこの学校に通えるようにしてくれた人からの頼みは断れない。 さっき穂鷹が断ったらこの学校にいられない、という言葉も怖い。 前 | 次 戻 |