冬の訪れ



 俐音がいつも通りノックをして特別棟の部屋に入ると、中で緒方が一人でホワイトボードに何かを書き込んでいた。

「あ、リンリン」
「みんなは?」

 部屋中を見回し、ソファのクッションを退けてみてもその姿が見当たらない。

「ちなみにコーヒーメーカーの中にもいないからね」
「おかしいな……。いると思ったんだけど」

 クッションの下やコーヒーメーカーの中じゃなく、この部屋に。

 穂鷹と響は俐音が気付いた時には教室から消えていて、先にこちらに来ているものとばかり思っていた。

「それで先輩は何書いてんですか?」

 覗き込むと、以前壱都ホワイトボードに描いていた不思議な落書きの上から新たに色々と塗り重ねられていた。

「ちょ、これ……ヒド!」

 小暮は眼鏡の奥の目が死んでるし、俐音は全身に毛だか針だかがぎっしり張り巡らされてるし、巨大な響は真っ二つに分断されている。

 だが俐音が酷いと声に出したのは穂鷹の事で、脳天に槍らしき刃物が刺さって貫かれていた。
 絵柄はファンシーなのに、やたらとグロテスクだ。

「前々から気になってたんだけどさぁ、これって何の絵なんだろうね?」
「壱都先輩の私達のイメージ像だそうですよ」
「えぇ! どれが誰!? あ、これメガネだから聡史か」
「この縞模様ゾウリムシが私で、巨人だったものが響。真っ黒いのが緒方先輩で、まんじゅうみたいなのが壱都先輩。で、串刺しにされちゃったのが穂鷹」
「……ぎゃははっ! 穂鷹だったんだ、このヒヨコ! あーなるほどなんか苛めたくなる顔してると思ったぁ」

 笑いながらとんでもない事言ってのけた緒方。
 さすがに少しだけ穂鷹に同情したが、実際苛められていても俐音では助けてあげられない。

「ちゃんと名前書いとこうかな。ていうか僕のが何でこんな黒いのか分かんない。真っ白でもいいくらいじゃない?」
「答えられないので私に訊かないでください」
「『その通りですよね』でいいんだよ!」
「選択肢がないじゃないですか」

 まさか本人も本気でそう思っているわけではないだろう。そこまで自分が分かってないわけじゃないはずだ。
 だが緒方の絵の下に「かおる?」と疑問系にしてる。

 俐音はそれが気に食わなくて、後でこっそり直しておこうと決めた。

「りおんの『俐』の字はどう書くの? こうして、こうこうで、こうして、こ……だーっ画数が多すぎる! やってらんない」

 ペンをホワイトボードに投げつけて人の名前に緒方はケチをつける。



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