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 響が気付いていないはずがない。だからこんなにも慰めるみたいな手つきで髪に触れてくるのだろう。

 でもせめて泣き顔はどうしても見せたくないから肩に凭れ掛かるように俯いた。

 あやす様に触れてくる響はどんな顔をしてるんだろうと思い再び顔を上げてみる。
 するとさっきと同じで表情など無かった。まるで何も感情などないように。

 そのギャップに耐えられなかった。

 分かっているくせに。穂鷹に置いて行かれたような気がして寂しいのだと、気付いているくせにどうして響はそんな顔をしているのか。

 慰めてくれているのではないのか。

 違う。違う、こんなときいつも彼は大丈夫だと言ってくれた。
 手と体温そのままに温かく包んでくれた。
 こんなのは違う。

 だから腕を突っぱねて無理やり押し返して離れた。

「それやめろよ」

 舌打ちをした後、響はそう言って俐音の目を手で覆った。見られたくなかったから。

 思っている事が今、絶対に顔に出ている。
 必死で隠すのにも限界があった。

 穂鷹には本心を隠してでも背中を押して応援するくせに、響が自分の思いと別の行動を取ると否定する俐音。

 どうしてだと、非難じみた目で見てくる。
 響は悪い事をした覚えは無いというのに。

「お前ほんとどうしたいんだよ」

 どうして欲しい。今の俺じゃそんなに不満なのか。
 誰と同じようにしたら満足なんだ。

 とても苛立って、多分不機嫌になっているだろう顔を見られればまた俐音は怯えて離れていくだろう。

 だから隠す。

「誰に慰めてもらいたかった」

 俐音は一瞬頭の中で思い描いた人物を見透かされて気がして肩が跳ねた。

「ひびき……」

 違うだろう、本当は誰の名前を呼びたかった。
 響の知っている人物なのかどうか知りはしないが、俐音の態度一つ一つが癇に障ってどうしようもない。

「俐音」
「ん……」
「俐音」
「ひびき……?」

 そっと手が離されると俐音は真っ直ぐ響を見た。
 見返してくる彼は仏頂面だけれど、いつも通りだ。

 さっきのは何だったんだろう。
 どうして幾度も確かめるように名前を呼ばれたのか。
 なんであの人を思い出したことに気付かれたのか。

「俐音」
「い……っ」

 突然強い力で顎を引かれ、俐音は思い切り顔を顰めた。

 だが文句を言おうと開いた口は、額がくっつきそうなほど近くにある響に驚いてそのまま言葉を発せない。

「お前の希望通りに動いてやる義理はないな」

 響は意地悪くにやりと嗤う。

「俐音がどう思おうと、俺は俺がしたいようにしかしない」

 誰かの代わりをさせられるつもりはない。

「目の前にいる俺だけ受け入れろ。今度否定して離れるような真似したら……ただじゃおかないから」

 言いたい事を言って満足した響は口を挟めずただ呆然としている俐音の頬をついでとばかりに摘んでから離した。

 いつもなら文句と反撃が同時に来るのだが、目を白黒させてそれどころではないようだ。
 それをいい事に響はさっさと歩き出す。


 響からの宣戦布告を受け取らされた俐音

 人間はそんな簡単には変われない

 でもいつまでも同じでもいられない

 ここにも変化が現れた
 少しずつ、少しずつ、氷を溶かすように、俐音自身も変わっていくのだろうか。




end



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