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「お前どうすんだ?」
「うわあぁ!!」

 穂鷹が出て行ったドアをぼんやりと眺めていると、どこからか声を掛けられて自分でも驚くほど大きな声を発してしまった。

「うるっせーな、一応授業中だぞ?」

 入り口の隣にある梯子を上って貯水タンクがある所からヒョコリと顔を出したのは響だ。
 そんな所にいたら気付くはずがない。

「一応言うな、サボリ魔め」
「お前もだろうが」
「ずっといたんだろ、盗み聞きしておいて良い度胸だな……」
「人が気持ちよく寝てたら勝手に下で話しだしたんだろ。それのせいで起きたんだからな」
「朝っぱらから寝るな。学校にわざわざ二度寝しに来たのかお前は!」

 論点がズレてしまっている。しかも上を向いたまま、少し離れた位置にいる響相手では声を張り上げなければならない。

 するとどうしても周囲にまで響いてしまう。それに響が舌打ちをして気だるそうに降りてきた。

「んで、お前はどうしたい?」
「へ?」

 間近に立った響の顔は太陽の逆光でよく見えない。そして質問の意味もよく解らなかった。

 間抜けた声を出した俐音を響は鼻で笑う。表情までは見えないけれど腹は立つので睨んでみる。

 横に動いて確認できた顔には表情がなかった。ただ俐音を見下ろしているだけで。

「響?」

 何も言わない響が怖くなって後ろに下がった俐音に、またもや舌打ちをして手を伸ばした。

 あっという間に腕を引かれ、気がつけば目の前には響の肩があった。

「……な、に」

 何なのこの状況?

 響の行動が全く理解できず離れようとしたが、頭に手を添えられてそのまま肩に押し付けられた。

「響! お前放せって」

 響の温かさに安心しそうになるけれどそんな場合ではない。それに先ほどから俐音が何を言っても一言も喋ろうとしないのが怖い。

 一体何を考えているのだろうか。

「穂鷹が変わってくのが嬉しいか、寂しいか」

 響の言葉が問いなのだと気付くまでに時間が掛かった。
 すぐそこにある顔を見上げれば彼は俐音ではなく真っ直ぐ前を向いていて、俐音もまたすぐに肩に額を預けた。

「喜んでやるべきだ、穂鷹は頑張ってる」
「答えになってねぇよ。ったく」

 一層強く抱きこまれてきついくらいだ。
 暴言を吐いてるくせに頭を撫でる手つきは優しいから、怒っているわけではないようだ。

 でも何故にこんな事になっているのか俐音には理解できない。
 決して嫌ではないのだけれど。

「人の話を聞け、放せ!」
「アホ。『寂しいです』って顔に書いてあるくせに強がんな」
「何言って……意味が分かんない」
「本当に?」

 顔を上げて、間近に合ってしまった瞳に俐音は驚くくらい大きく体が震えた。

 まただ。
 何で響には気付かれてしまうんだろう。
 どうして放っておいてくれないんだろう。

 奥まで覗かれていいるのではと思うほど強い視線から逃れようと足掻いても、力で完璧に負けてしまっていて腕の中から抜け出す事が出来ない。

「……だって、そんなの間違ってる。穂鷹は頑張ってるのに」

 俐音は今のままの穂鷹がいいと言った。本当にそう思った。
 なのに彼自身にそんなつもりはないのだろうが穂鷹は確実に変わろうとしている。

 一人で進んで行っているのが離れてしまうみたいで寂しいなんて、そんな我が儘な事言えるはずがない。

「別に間違ってないと思うけど。穂鷹に近くにいて欲しいってだけだろ」
「……言うなよ、そういうの」
「何で」
「何でって、な、……きそう、になる……」

 もうすでに声は震えて半分以上泣いてしまっている。



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