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「なに……」
「うん、可愛いなぁ」
「はぁ!?」
「うん、もうね。相手の反応窺うだけなのヤメにした。頑張っちゃおうと思うんだ」

 突然話が飛んだ気がして返答に困ったが、頑張ると言うのならそれはそれでいいのかな、と頷いてみせる。

「分かってないでしょ」
「分かるわけないだろ、穂鷹の考えてる事なんて」
「まぁいいんだけどね、今はまだ」

 いつかは穂鷹の言わんとしている事を理解出来るのだろうか。
 だがその日はまだ来なさそうだ。
 俐音の訝しげな面持ちから推察した穂鷹は苦笑した。

「……あ、タバコ吸うなら吸えば?」

 穂鷹の反応が面白くなくて口を尖らせながら、ふと思いついた事を言った。
 穂鷹が屋上に来る時は大抵タバコが吸いたい時だ。

 俐音はタバコが好きじゃないから、それを知ってる穂鷹は俐音の前では吸わないようにしてくれているのだけど、外なら風下に居なければ平気だ。

「持ってない。タバコもやめたんだ、俐音ちゃん嫌いだよね?」
「それって私のせいって事? 好きじゃないけど穂鷹がやめる必要ない」

 そうやって他人を思いやれるのは穂鷹の良い所だけど、自分のせいで我慢を強いるのは嫌だ。

「え? 違う違う。俐音ちゃんのために止めるの。オレがそうしたいから。……とか言えたらなんかカッコ良いんだけどねー。本当は父親に反抗するためにしてた事全部やめようって決めたのが理由なんだ」
「は? お前っ今ちょっと感動しかけた私の心をどうしてくれんだ!」
「じゃあオレにちょうだい」
「どうやって!?吐き出せと? 無茶な事言うなっ」

 口から出す代わりに、パシンと腕を叩いた。
 それにしても、何でコイツこんなにも晴れやかな表情をしてるんだ。
 朝から爽やか過ぎてウザいな。などと半ば八つ当たり的に穂鷹の髪を引っ張る。

「いたぁ」
「バーカ。あれ……」

 髪をかき上げた拍子に露わになった耳には今まで通りピアスが輝いていた。

「これは外さなかったんだ?」
「キレイだって言ってもらえたから」

 左右に二個ずつのピアスがガラス玉なのか宝石なのかの区別もつかないが、穂鷹にとても似合っていた。

 俐音はそれを素直に伝える事はしない。
 調子に乗りそうだし、なにより恥ずかしいから。

 だから穂鷹を屈ませて見慣れない黒髪を撫でながら「頑張れ」と聞こえるか定かでないくらいの小ささで呟いた。

「ありがとう」

 太陽の光を受けて煌くピアス同様に眩しいくらいの笑顔で答えた穂鷹は屋上を後にした。


 人間はそんな簡単には変わらない。
 努力したって抜けきらない部分が絶対に出てくる。

 穂鷹だって多分それくらい分かってる。
 でも、それでも自分から動かなければ何にもならない。始まらない。

 穂鷹は動いた。
 私は?
 変わりたいと願った。けれど変わってはいけないんじゃないかとも思う。
 今までの私が霞んでしまうんじゃないかって。

 変われない、失いたくない、でも知られたくない。
 なら、誰も気がつかない場所にいしまいこむ

 だから頑張って、穂鷹
 私の分まで……




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