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「私みたいに、は無理だろうな穂鷹じゃ」
「うわー……」
「穂鷹は相手の気持ち深読みし過ぎるから。傷つけちゃダメだって言葉を選ぶだろ」

 俐音は思ったことをそのまま口にする事が多い。
 相手を気遣う前に言葉にしてしまう。

 それがいいと言ってくれるのは喜ばしいが、穂鷹も同じようになるのはどうだろうか。

「私は今のままの穂鷹の方がいいな」

 不器用だけど、いつだって相手の為に真剣に悩んでいる穂鷹がいい。

「緒方先輩だってそうじゃないかな」

 今日、穂鷹と落ち合ってからの方が緒方らしいように思えた。

 俐音と二人きりよりも穂鷹が中に入る事によって普段通りになれた。

 それは緒方にとって今の穂鷹が安心出来る存在だったからじゃないだろうか。

「全部自分のせいにするのは穂鷹の悪いクセ」
「それでも……もう少し何かしてあげられたらって思うよ」
「何かって何。お父さんに文句言うの?そんな事したって意味ないだろ」

 穂鷹だって分かっている。
 父親にとやかく言ったところで何にもならない。第一、聞くわけが無いのだ。

 だけどこのまま何もせずにいる事も出来ないから、文句だけでもと昨日久しぶりに家に帰ったのだが父親は仕事から戻ってこなかった。

「分かってるんだけどね、今更過ぎるってのも」

 今までこの話題を自分から出そうとしなかったのは、ここへ来られなかったのは怖かったからだ。

 最低だと思う人でも父親は健在で、頼りになる母親がいて恵まれた環境の中に浸っている穂鷹が緒方に掛けていい言葉が見当たらなかった。

 頭に浮かんだ言葉は全て、お前が言うなと一蹴されてしまいそうで。
 数日前、俐音が両親に疎まれたのだと泣いていたときだってそう。

 なんて情けない。
 うじうじ悩む自分が嫌で、こんな時昔はよく母親に「しゃんとしなさい」と言って背中を叩かれたのを思い出した。

 だから意味が無いと分かっていても父親と話をしてみようと思ったのだ。

「もっと他にあるよ、今の穂鷹に出来る事、してきた事。緒方先輩は本当に今楽しそうだよ。それは穂鷹のお陰だ」

 優先順位を間違えないで欲しい。
 後悔するんじゃなくて、責任を問いただすんじゃなくて、笑っていたいと望んでいる人と一緒に笑顔で過ごす方に重きを置いて欲しい。

 俐音はしゃがんだままの穂鷹に合わせて屈んだ。直ぐ近くにカラーコンタクトで緑がかった瞳がある。

「今のオレのままでいいのかな……」

 いつまで経っても成長できないみたいで穂鷹には悔しいのだけれど。

「違う、今の穂鷹がいい。さっきも言っただろ?」

 穂鷹は一瞬眉を寄せてからボソリと何かを呟いたけれど俐音には聞き取れなかった。
 聞き返そうとしたとき腕を引かれ、穂鷹に倒れこんだ。

「穂鷹痛い」
「うん、ごめんね」

 でもどうしても抱き締めずにはいられなくて。

 本当にどうしていつも心を軽くしてくれるんだろう。
 どうすれば俐音にも同じ事をしてあげられるんだろう。
 もう泣かなくてもいいようにしたい。

「謝らなくていい」
「……そっか。ありがと」
「ん」

 俐音は顔の直ぐ横にあるオレンジ色の髪に手を当てて、あやす様に撫でた。
 染めている割に痛んでいない髪は何の抵抗もなく指の間をすり抜けてゆく。



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