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 どこぞの国の挨拶だろうか。
 そのくらい自然な動作で行われたものだから、振り払って良いのかどうかの判断に迷った。
 
 遠慮がちに、しかししっかりとした意思を持って離れようとするのだが、男はびくともしない。

「どうしたの? この毛色の珍しい子」

 意図が掴めず、どう対処すべきか悩む俐音を無視して男はそのままの状態で話し始めた。

「あぁ、それ拾ってきた。使えそうだから。非売品だぞ」
「そうなんだ。グッジョブ響」
「ひ、人を物扱いするなぁ!」

 すっぽりと腕の中に収められ、頭をグリグリと撫でられて狼狽えてしまい、そのせいでツッコむ場所がズレた。

「その辺で止めてやれ。困惑してるだろ」

 静かに言って腕の中から無事救出してくれたのは先ほど入ってきたもう一人だった。

「こいつらいつもこんな調子だから。ごめんな?」

 うっすらと涙でぬれた瞳をのぞき込んで頭を撫でられた。
 それはまるで兄が泣いている妹をあやすような手つきで、無条件の優しさが含まれていた。

「俺は小暮 聡史(こぐれ そうし)。こっちが福原 壱都(ふくはら いちと)。俺らは二年だよ」
「どうも、鬼頭 俐音です」

 俐音がぺこりとお辞儀をすると、二人はニッコリと笑った。

 小暮はノンフレームの眼鏡をかけた優等生タイプ。
 福原はふわっと柔らかく笑ったところは優しそうな印象があるが、変わった人だと俐音は思った。

 五人もいてまともだと言える人が小暮一人だけだという事に不安を感じないわけがない。
 早く教室に戻りたいとドアの方を見ると、神奈が口を開いた。

「んじゃ、本題に入るか。まあ座れ」

 促されたソファに腰掛けて、神奈のほうを向く。

「この学校、こんな土地が余りまくってる場所にでかでかと校舎建てなきゃいけないくらいに生徒数が多い。なのに行事や雑用を引き受けてる生徒会の人数が五人。とてもじゃないけど回るはずがない」
「それは……人数を増やせばいいんじゃないのか?」
「そう。で、増えたのが俺ら。厳密に言うと俺らは教師っていうか理事長に頼まれてるんだけどな。まあほとんどやってる事は同じだ」
「たまに愉しい事件が起こって面白いんだよ!」

 テーブルの上に置いてあるお菓子を食べながらニコニコと緒方先輩が笑っている。

 今事件って言った? 事件なんて起こるの!?

 目を剥いた俐音に緒方は笑ったまま頷いた。
 意思の疎通はうまく行かなかったようだ。

「つまり生徒会は行事進行プラス雑用、俺らは理事長の所用プラス雑用」
「た、大変だな……?」

 だんだんと話の流れが見えてきて拙いと思った。
 何とかしてこの場から立ち去らなければ。




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