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 墓前で手を合わせる緒方に何と言えばいいのか分からなくて、俐音も隣にしゃがみ込んで同じように手を合わせた。

「ねぇリンリン……誰か、いる?」
「――は? 穂鷹ならいますけど」
「あ、ホントだ。ほーちゃんいたんだ」
「ずっといましたけど!?」

 いたもなにも、一緒にここまで来たではないか。
 穂鷹と俐音には緒方の言葉の意味が分からない。

「ていうか人間じゃなくてね、その……」

 珍しくも歯切れの悪い緒方に、俐音はもしかしてと言葉を紡いだ。

「前にも言いましたけど私霊感なんてこれっぽっちもありませんよ?」
「詐欺だよねぇ。バッチリ見えてますーって顔してるのに」
「どんな!? 霊感顔ってなんですか!」

 勝手に無理難題押し付けて、クリア出来なかったからって拗ねないでもらいたい。
 俐音は呆れ、けれどすぐに思い直した。

 緒方の心情を考えれば、もしかしたら両親がいるかもしれないと思っても仕方ないのではないか。

「馨はいて欲しい?」
「やだよ絶対。僕は気付いてあげる事も出来ないのに。そんなの意味ないじゃない。だったら生きてる時にどうして言ってくれなかったのって……」
「だから幽霊が嫌いなんですね」

 幽霊が居たとしても見えないんだから、どうしたらいいか分からない。
 以前緒方はそう言った。

 自分に何かを訴えているのに、その存在に気付きもせずにいる自分が許せない。
 何もしてあげられない事が悔しい。

 そんな思いを抱いているんだろうか。今日はずっとそういう事を考えていたんだろうか。

「ご両親はいないんじゃないですかね」
「どうして?」

 いて欲しくないと思っていたのに、いざ言われてしまうと実に勝手だが、二人は自分の事を見守ってくれていないのかとショックを受けた。

「緒方先輩がちゃんと笑ってるから」

 “面白い事”に食いつきがいいのもきっと根底はここにあるのだろう。
 そしてそんなときの緒方は、心から楽んでいると俐音は思う。

「心配なんてしてないですよ、きっと。先輩は強いから」
「……そっか」

 クスリと力なく笑って緒方は埃っぽい墓石にそっと触れた。

「僕は毎日楽しいよ。だから二人もそんな場所にいてね」

 そのまま目を閉じて俯いた緒方を俐音と穂鷹は黙って見ていた。
 声を掛けたり、動いたりしたら邪魔になりそうで。


 どれくらいしてからだろう。漸く二人の方を向いた緒方は少し寂しそうだったけれど、すぐに「お花飾らなきゃね」と笑った。

「水汲んでくるの忘れた。ちょっと行ってくる!」

 緒方は返事を待たずに言ってしまい、俐音と穂鷹も追いかけなかった。
 一人になりたいのだろう。

 穂鷹はずっと持っていた花束を置き、手を合わせた。
 緒方の両親に会った事は無い。
 今年初めてここへ来た。

 ごめんなさい。馨はオレの家にいた間きっと不幸だった。

 そう頭を下げる。

「……やっぱ俐音ちゃんはすごいね」
「うん?」

 聞き取れず首を傾げる俐音に眉を下げながら笑った。

 どうしてそうやって何でもないように、沈んだ心を掬い取ってしまえるのだろう。
 彼女自身が自覚できないくらい何気ない一言で。

 穂鷹はそれがしたくて、自分の父親のせいで緒方に嫌な思いをさせてしまった罪滅ぼしがしたくて。

「どうやったら俐音ちゃんみたいに気の利いた事言ってあげられるのかな」

 俐音は目を丸くして穂鷹を食い入るように見つめた。



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