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 中にはロールケーキが一本入っていて、気分が沈んでいたはずなのに菊と二人でぺろりと平らげたと記憶している。

「このお店のだったんですね、すっごい美味しかったです」
「それは良かった」

 答えたのは人数分のケーキと飲み物を乗せたトレイを片手で軽々と持つ男性だった。

「はじめまして、馨の叔父でこの店の店長やってます」
「あ、はじめまして」

 言いながら隣に座る緒方を盗み見た。
 視線に気付いた緒方はにこりと笑う。

「叔父さんのケーキは美味しいよ」
「えと、そうですね……」

 綺麗に盛り付けられたケーキの皿を受け取りながら言いよどむ。
 気になったのはそこではなく、血縁者なのかという事だったのだが。

「ゆっくりしてって」

 ベルを鳴らして入って来た客の方へと向かう姿を目で追ってから、もう一度緒方を見る。

「似てないなぁって思った?」
「まぁ……」
「女の人いたでしょ、あの人が僕のお母さんの妹で、彼はその旦那さん」
「へぇ」

 相槌を打ちながらケーキを食べる。
 何気なく前を向くと、穂鷹はへらりと笑った。

 あまり事情に詳しくないから静観しているのかと思ったが、緒方の叔母さんが「穂鷹くん」と言っていたので全く知らないわけでは無いはずだ。

「先輩が甘いものよく食べてるのってここの影響ですか?」

 特別棟の部屋にはいつも多種多様のお菓子が置かれていて、それは全て緒方が用意しているらしかった。

「そだね、ちっちゃい頃からの習慣だから」
「この店ってそんなやってるんだ」

 夫婦はまだ若そうで、何年も前から自分達で店を構えているようには見えなかった。

 けれどそれは俐音の目算と想像だけの話だから実際には違うのだと言われれば、そうなのかと頷くだけだ。

 俐音達が食べ終わる頃には時間帯のせいもあり、満席になっていた。
 店内を忙しくくるくると回る二人に挨拶をして出た。

「どこ行くんですか? ここが目的じゃないんですよね?」

 緒方が持っている紙袋と、穂鷹が手にしている花束。
 これを持って今からどこかへ出掛けるのだろう。

「うん、これからが本番。今までは準備運動みたいなものだよ!」
「むしろ休憩してたと思うんですけど」

 満たされたお腹を摩る。

 住宅街を抜けて急な坂道を登っていくと広い公園のような場所に出て、でもそこは公園なんて無邪気な処ではなかった。

 亡くなった人たちが数多く眠る霊園。

「着いたー! 疲れたー帰りたーい」
「何言ってんの馨、ホントに着いただけじゃない!」

 入り口で立ち止まってしまった緒方の手を引っ張って穂鷹が門をくぐる。
 俐音も一瞬躊躇したが、その後に続いた。

「だ、誰のとか訊いても……?」

 肩を組んで先々歩く緒方と穂鷹は目配せた。
 口を開いたのは緒方の方。

「僕の両親のお墓だよ」




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