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「緒方先輩の方が今日は変ですよ」
「変なんて言ってな……そうなの? 僕って変!? でもそうかな、かもしれない」

 疑問と答えを一人で行う自問自答。
 そんな緒方に俐音はあんぐりと口を開けた。

 それってどういう事?どこが?などとどす黒いオーラを纏って問い詰められる覚悟での発言だったために尚更。

 しかも自分が変であると肯定してしまった。
 まさか彼がそんな事をするなんて。

「頭大丈夫ですか?」
「どういう意味かな」

 今度こそ刺すような視線を送られて俐音は口を押さえた。
 やり過ぎてしまったらしい。

「や! 違うんですその、大丈夫そうで何より……」

 ごにょごにょと最後はもう何を言っているのか分からない。

 怯えて俯いてしまった俐音の手を軽く引く。

「リンリンはさ」

 言いよどむように、そこで言葉を切った。

「もしこの先、穂鷹か響のどっちかとしか一緒にいられないってなった時どっちを選ぶ?」
「どっちか、ですか?」

 唐突な質問に緒方を見返すと、真剣な表情とぶつかった。
 真面目に答えなければ。そう思って二人を思い浮かべた。

 どちらか一人。
 それはどういう状況下での話なのか。

 二人がケンカをしていてどちらの味方につくか、といったところだろうか。

 それとももっと深刻で、片方とはもう二度と会えなくなるような……

 黙りこくったまま悩み続けていると、緒方が足を止めた。

「ざんねーん時間切れ。着いたよ」
「カフェ?」

 こじんまりとした飾り気の少ない店だった。
 入口にメニューの書かれているボードが立てかけられていたが、緒方はそれを見ないでドアを開けた。

「こんにちは」
「いらっしゃい。穂鷹くんもう来てるわよ」

 女性店員がそう言って店の奥に目をやった。
 数脚しかないテーブルの一つについていた穂鷹が手を振っている。

「ほーちゃん早かったね、もう終わったんだ?」
「いや、まだ。結局帰って来なくて」
「ふぅん」

 緒方と穂鷹の会話を聞いていても何の事だかさっぱり理解出来なかったが、俐音が口を挟めるような雰囲気でもなくただ聞いていた。

「俐音ちゃんごめんね、オレが誘ったのに」
「それはいい、緒方先輩がいたから」
「うん、馨はありが……って何で手繋いでんの!?」
「心が未成年だから!」
「意味わっかんないんだけど!」

 心どころか年齢も二十歳に満たない。
 それとこれとの関係性が見えてこない穂鷹は取りあえずやんわりと二人の手を離させた。

 彼の少し焦った様子を見て緒方はクスリと笑う。

「馨くん、頼まれてたものは用意できてるけどどうする? 何か食べてから行く?」

 先程の店員が紙袋を持って現れた。
 緒方はそれを丁寧な手つきで受け取って「そうします」と返した。

 私の隣で喋っている男の人は誰なんだろう。

 常識的な振る舞いをする緒方に対して、俐音は失礼なことを至って真面目に考える。
 普段の緒方とはかけ離れていて、やはり今日は変だと思った。

 「少し待っててね」と奥へ入っていった店員を見送って席に着く。

「あ」

 緒方がテーブルの上に置いた紙袋を見て漸く気付いた事があった。

「これ前ケーキもらったのだ」

 響とぎくしゃくしたときに、緒方が出血大サービスだと言ってこれと同じものをくれた。



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