▼page.5 頼り無さそうに言った人物は、声の印象とは裏腹に目つきが鋭く、黙っていれば怒っているのかと思ってしまいそうな印象を持つ。 髪は粟色でワックスを使ってはねさせている。 ネクタイの色が壱都と同じだから二年のようだ。 「あっつん」 壱都は彼を指差した。 俐音と彩は意味が分からず黙って指されたままの男子生徒を見る。 「誰があっつんか!!」 さっきまでとは態度を一変させて、物凄い剣幕で怒鳴った。 彩がびくりと体を震わせるほどに。 「篤志! 後輩怖がらせない」 安部がぽかりとノートを丸めた棒で叩く。 「篤志だからあっつんか、変な名前だと思った」 すっきりした面持ちの俐音を、篤志は睨みつけた。 「ねぇだろ、そんな名前にされてたら親呪うわ!」 間髪入れずに返ってきた言葉に少なからずショックを受ける。 相手が強面だからというのも原因の中に含まれるだろう。 「そのくらいで黙れ川嶋。話し始める前にチャイム鳴る」 今まで黙っていた、一番奥を陣取っていた生徒が川嶋 篤志(かわしま あつし)を制した。 それはまだ少年らしい高さを保つ声で、背格好も俐音や彩より少しだけ大きいかもしれない、という男にしては小柄さ。 短いストレートの黒髪から覗くのは大きめの瞳で、女の子だと言っても通用しそうだ。 こういう人がいてくれるから、私や彩が女だってバレなくて済むから助かる。 俐音はそんな場違いな感想を抱いた。 「みぃだよ」 「みぃ?」 「宮西だ」 壱都の説明にならない説明を宮西 巧(みやにし たくみ)は自身で補足する。 俐音は納得したように頷いた。 「みぃさんは美人さんですね」 「次言ったら殺す」 「二度と言いません、ごめんなさい」 ほとんど無意識のうちの呟きが逆鱗に触れてしまったらしい。 壱都が邪魔で体が動かないが、必死で頭を下げて平謝りをした。 「もう何なんだよここ、めちゃくちゃ居心地悪いんだけど直紀!?」 急にお鉢が回ってきた直貴はふるふると頭を振る。 俺に言われても、という意思表示だろう。 「ああほら、巧と篤志のせいで印象悪くなっちゃった」 殺伐とした二人とは対照的に明るく振舞う安部は「どうするの」と言いながら微笑んでいる。 「それで。何の用なの」 「別に壱都には無いんだけどね」 そもそも何でいるのかと言いた気だ。 尋ねながらも壱都は彼等の目的に気付いていたし、俐音と彩では対処しきれない事も分かっていた。 だからついて来たのだ。 こんな処、本来なら寄り付きたくもないのだが。 来てしまったからには一秒でも早く用件を済ませて帰るに限る。 巧に目をやると、早く終わらせたいと思っていた彼は賛同するように頷いた。 「お前等二人は生徒会に入る事」 簡潔に述べられた文章だったのだが、残念ながら俐音達はすぐさま飲み込む事が出来なくて。 返事が無いのを良い事に「じゃあ決定で」と話を進めた。 前 | 次 戻 |