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 頼り無さそうに言った人物は、声の印象とは裏腹に目つきが鋭く、黙っていれば怒っているのかと思ってしまいそうな印象を持つ。

 髪は粟色でワックスを使ってはねさせている。
 ネクタイの色が壱都と同じだから二年のようだ。

「あっつん」

 壱都は彼を指差した。
 俐音と彩は意味が分からず黙って指されたままの男子生徒を見る。

「誰があっつんか!!」

 さっきまでとは態度を一変させて、物凄い剣幕で怒鳴った。
 彩がびくりと体を震わせるほどに。

「篤志! 後輩怖がらせない」

 安部がぽかりとノートを丸めた棒で叩く。

「篤志だからあっつんか、変な名前だと思った」

 すっきりした面持ちの俐音を、篤志は睨みつけた。

「ねぇだろ、そんな名前にされてたら親呪うわ!」

 間髪入れずに返ってきた言葉に少なからずショックを受ける。
 相手が強面だからというのも原因の中に含まれるだろう。

「そのくらいで黙れ川嶋。話し始める前にチャイム鳴る」

 今まで黙っていた、一番奥を陣取っていた生徒が川嶋 篤志(かわしま あつし)を制した。

 それはまだ少年らしい高さを保つ声で、背格好も俐音や彩より少しだけ大きいかもしれない、という男にしては小柄さ。
 短いストレートの黒髪から覗くのは大きめの瞳で、女の子だと言っても通用しそうだ。

 こういう人がいてくれるから、私や彩が女だってバレなくて済むから助かる。

 俐音はそんな場違いな感想を抱いた。

「みぃだよ」
「みぃ?」
「宮西だ」

 壱都の説明にならない説明を宮西 巧(みやにし たくみ)は自身で補足する。
 俐音は納得したように頷いた。

「みぃさんは美人さんですね」
「次言ったら殺す」
「二度と言いません、ごめんなさい」

 ほとんど無意識のうちの呟きが逆鱗に触れてしまったらしい。
 壱都が邪魔で体が動かないが、必死で頭を下げて平謝りをした。

「もう何なんだよここ、めちゃくちゃ居心地悪いんだけど直紀!?」

 急にお鉢が回ってきた直貴はふるふると頭を振る。
 俺に言われても、という意思表示だろう。

「ああほら、巧と篤志のせいで印象悪くなっちゃった」

 殺伐とした二人とは対照的に明るく振舞う安部は「どうするの」と言いながら微笑んでいる。

「それで。何の用なの」
「別に壱都には無いんだけどね」

 そもそも何でいるのかと言いた気だ。

 尋ねながらも壱都は彼等の目的に気付いていたし、俐音と彩では対処しきれない事も分かっていた。

 だからついて来たのだ。
 こんな処、本来なら寄り付きたくもないのだが。

 来てしまったからには一秒でも早く用件を済ませて帰るに限る。
 巧に目をやると、早く終わらせたいと思っていた彼は賛同するように頷いた。

「お前等二人は生徒会に入る事」

 簡潔に述べられた文章だったのだが、残念ながら俐音達はすぐさま飲み込む事が出来なくて。
 返事が無いのを良い事に「じゃあ決定で」と話を進めた。



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