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「おっかえりーって……力ずくで連れてくるって言ってたけど、まさか背負ってくるとは思わなかったなぁ」

 成田はヘラっと笑いながら少し長めの髪を後ろに流す。
 その仕草も様になるが、今の俐音はそんな悠長な感想を持つ余裕はなかった。

「成田もグルか! この誘拐魔がっ、普通担ぐか!?」
「生半可な捕まえ方だと逃げそうだったから」
「当たり前だ!」

 やっと降ろしてもらい、ふらつきながら神奈と距離をとる。

 別にもう何かをされると思っているわけではないが、神奈に芽生えた警戒心がそうさせるのだ。

「でもお陰で楽だっただろ?」
「それはまぁ……とでも言うと思ったか! 眼鏡が外れそうで危なかったんだぞ!!」

 バンッ
 と机を力一杯殴りつける。

「あははっリンリン何だか昨日とキャラ違ってるよ!」

 ソファの背もたれから顔だけを出して緒方がケタケタ笑った。

「誰のせいで……先輩何ですか? そのリンリンって」
「ん? 俐音だからリンリンだよ!」

 満足げにビシっと親指を立てる。

 そんな、どうよ! みたいな顔されても全く説明になっていない。

「成田といい先輩といい、男におかしいでしょうが。俐音ちゃんとかリンリンとか!」
「そうなんだけど、何て言うか……ノリ?」
「うんうん……インスピ?」

 二人とも何でだろうと首を傾げている。
 つまりは深く考えたわけではないらしい。

 特に女だと疑われているわけではなさそうだと、俐音は心の中でほっと肩を撫で下ろした。

「まあ、いいか。で? 何でこんなところまで連れてこられたわけ? 記念すべき第一回目の授業もサボらされて」

 ここはいつも彼らと会う屋上のある棟の四階の一室。

 外観からは分らなかったが、部屋の中は教室としては一切機能しないだろう事が見て取れる造りになっていた。

 机はパソコンが備え付けられている大きめの立派なものが三つずつ向かい合わせに並んでいるだけ。

 その横にはふかふかしてそうな、これまた立派な革のソファに背の低いテーブル。
 その上にはお菓子が山のように積まれている。

 床にはカーペットが敷かれていて感触がとても柔らかい。

 壁に貼り付けられているホワイトボードには動物だか植物だか、地球外生物だか分らない落書きがびっしりと描き込まれている。

 まさかこんなところで授業なんてできやしないだろうといった感じだ。

 ……にしてもホワイトボードのこの落書きは何なんだと、そっちに気をとられているとカチャリと音がしてドアから二人の生徒が入っててきた。

 振り返ったら後から入ってきた、ちょっとタレ目ぎみの人と視線がパチリと合った。

「………」
「………」
「……あの、これは一体?」

 その人が近づいてきたかと思うと何も言わず抱きしめてきたんだけどどういう意味だ?



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