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 教室に戻るのだと二人は決め付けていたが、違ったらしく渡り廊下を歩いて向かいの棟へと進んだ。

 学科によって教室のある棟が違い、スポーツ科と芸術科がこちらの棟になる。
 用事が無い限りは訪れないせいか彩が珍しげに視線を右往左往させていた。

「ね、ね、あれ! あの人!」

 彩は視線を定め「俐音の知り合いだよね?」とある人物を指差した。

「壱都先輩」

 随分前を歩いていた壱都は、俐音の呟き程度の声に反応して振り返った。
 その場で立ち止まって俐音達が追いついてくるのを待っている。

「どうしたの?」
「昼ご飯お呼ばれしに来ました」
「そう」

 壱都は俐音から後ろにいる直貴に顔を向けた。
 目が合うと直貴は頬を引きつらせながら、はは、と乾いた笑いを零す。
 どうやら知らない間柄ではないらしい。

「生徒会室に行くんだ」
「生徒会? ……あーっそうだ直貴って生徒会か!じゃあまさか」
「いや、うん……。まさか俐音がまだ気付いて無いとは思ってなくて言わなかったけど」

 言い訳がましいくなってしまったのは、壱都に動揺しているせいだろう。

 途端嫌そうな顔をした俐音だったが誘惑には勝てず、行かないとは言い出さない。

「俺も行こうかな」

 俐音の頭に手を置いて壱都が朗らかな口調で言う。
 ぱっと表情を明るくした俐音と少し目を見張った彩、そして直貴は戸惑っている。

 三者三様の反応を壱都は楽しむように笑んだ。

「安部もいるだろうし」
「あいつか……! モデルみたいな涼しげな顔して嫌味ったらしい」

 貶しているのか褒めているのか微妙なところだが、忌々しそうに呟いた。
 安部に好い印象を一切持っていないから仕方ない反応だろう。

「ああオレ絶対怒られる……!」

 直貴の悲痛な叫びを聞いたのは彩だけだった。





「連れてきました」

 直貴の声に怯えが含まれているのは気のせいではない。

 部屋は教室の半分くらいの広さだろうか。
 真ん中に長方形の机が向かい合わせにくっつけられていて、イスが五つ並んでいる。

 壁一面には埋め込み式の本棚があって中には煩雑にファイルが詰め込まれている。

 普段俐音達が使っている特別棟の部屋の方が断然広くて綺麗だ。

 だけど、ここにもちゃんと冷蔵庫やコーヒーメーカーなど、あれば便利だろうが不要だと思われるものは装備されている。

 部屋の中にいたのは三人。一人は安部。
 俐音達に紛れて壱都が入って来たことに良い反応を示さなかったのは残りの二人だった。

「なんで福原が付着してんだ……」

 同行人が増えたという意味合いとしては変な言い方だが、俐音の首に腕を絡めてくっついている壱都の状態を見れば妙に納得してしまう。



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