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 俐音は一時間目の数学を乗り切り、すっきりとした表情の彩と昼食のため食堂へと向かう途中、最近やたらと纏わり付いてくる周囲からの視線に辟易して肩を竦めた。

 纏わりつくと言っても廊下で振り返られたり、遠くからでも見られているなと気付くような、その程度のもので特に害もないので今まで放っておいたのだが。

 原因も解らず、彩といる時はその視線が強まるのが愉快とは言えない。

 戸惑う様子もなく普段通りにしている彩はきっと気付いていないのだろう。

 もうちょっと危機感を持てとは俐音がいつも響達に言われている事で、だがおそらく彩の方がその意識は希薄に違いない。

 だから私が何とかするしかないなと俐音は思うし、守るべき対象として見れば自然と態度が甘くなってしまう。たまに穂鷹が呆れるほどにだ。

「俐音! 駒井ー!」

 パタパタと掛け寄って来た直貴に二人は足を止めた。

「あー間に合った。昼、一緒に食おう」
「いいけど、直貴も食堂?」

 仲は良い方だがこれまで誘われた事はなくて、どういった風の吹き回しなのか。
 手ぶらだからお弁当じゃないんだろうなと尋ねれば、直貴は途端に顔を曇らせた。

 言い出しにくそうに目を逸らす。

「それなんだけど、ちょっと二人に来てもらいたいところがあって」
「でも俺等は食堂行かなきゃ何も持って無い」
「大丈夫、食べるもんなら用意してるから!奢るし!」
「彩」

 どうする? と同意を求めるための呼びかけだったが、既に俐音は行く気満々で目を輝かせている。

 警戒心の強い俐音だから、少しでも疑わしいと感じれば絶対に乗らないだろうに、今は空腹のため完全に欲に目が眩んでいる。

 突然の申し出に対する不信が無いわけではないが、奢ってもらえるのは正直ありがたい。
 彩は苦笑しつつも頷いた。

 二人の反応に安心した直貴はこっちだと促した。

「心配しなくていい」

 直貴の数歩後ろをついて行きながら、俐音が声を落とし言う。

「何言われるのかは知らないけど、ヤバそうだったら飯だけかっぱらって逃げるから」

 直貴くらいなら簡単に倒せる、なんて物騒な言葉を吐く俐音にあれ二人って仲良いんじゃなかったっけと不安にかられた。

 直貴は良い奴だとは思うがそれはそれ。
 今の彼に何か裏があるのは俐音にだって判る。

 意にそぐわないのであれば自分や彩の身の安全確保を優先するのは当然の事。

 だがそこまでして餌に釣られてしまう俐音の思考を熟知している直貴の方が一枚上手と言えるかもしれない。




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