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「こっちに何があるんだ?」
「さぁ?」

 俐音達が来たのは一日中日の当たらない薄暗くて、今の季節は他の場所より肌寒い校舎の裏。

 生徒もほとんど寄り付かない方へと手を引く男の子が何を目指しているのか検討もつかない。

 何度か姿に話しかけても指を差すばかりで答えようとしないのは、もしかしたら話せないのかもしれないと気付いたのはつい先程。

 それからは三人、大人しくついて行っている。

「俐音ちゃんと響だけ手繋いでずるい」
「じゃあ穂鷹も繋げばいいだろ。神奈と」

 俐音は両手が塞がってしまっているのだから、神奈しかいない。
 だが神奈はポケットに手を突っ込んだまま穂鷹を一瞥しただけで、それ以上の行動は取らなかった。

「……いや、オレも響とはやだよ。うん」
「我がままだな。ていうか何で私は神奈と繋いでんの?」
「お前が掴んだんだろうが」

 言われてみれば、そうだったような気もする。
 じゃあもうその必要もないと手を解いた。

 解放されて急に軽くなった手は重力に逆らわず下に落ちる。

 繋ぐ時も離れる時も、一方的すぎる行動に神奈は内心戸惑っていた。
 俐音にはずっと調子を狂わされてばかりだ。

 自分には見えないものに未だ引っ張られている俐音の後姿を眺めていると、ピタリとその足が止まった。

 男の子は立ち止まり「あれだよ」と言うように一点を指差す。
 校舎の壁のすぐ外側を雨水が流れるようにと浅い溝が作られていて、そちらに向けられていた。

「……花?」

 溝の脇に一輪の花が色づいているのが目に入った。
 紫色の小さな花弁が縦に幾つも連なっている花。

 俐音が問いかけると男の子は頭を大きく振って頷いて、それに駆け寄る。

「あ!」

 俐音を通して出しか何が起こっているのか理解出来ない穂鷹達には、突然彼女が驚きの声を上げた理由が分からなかった。

 俐音の視線を追ってみるも、当然ただの校舎の壁しか映らない。

「俐音ちゃん?」
「消えちゃった……。これに触ったら」

 これ、と風に揺れる花に手を添える。
 男の子は吸い込まれるように徐々に身体が透き通っていなくなってしまった。

 もしかして、これはあの子自身なのかな

 同じ色をした髪と瞳を思えば、あながち間違いではないだろう。

 ずっとここで独り佇んでいたんだろうか。
 そして同じように人の姿を取って現れて、悪戯をしていた。

 気付いてもらいたかったから。
 俐音のように視える人の目に留まるようにと。

「これ、部屋に飾っちゃダメかな」
「いんじゃねぇの」
「うん、あそこの方が日当たりいいしね」




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