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「……結局その、何なんだ? なんかがいるんだろ?」

 俐音の自作自演だとは思えないし、そんな事をする意味もない。
 非現実的で決して認めたくはないけれど、目には見えない存在が確かに今ここに在るらしい。

「何かは知らない」

 事も無げに言ってのけて、俐音は撫でる仕草をした。

「お前ふざけるのも大概にしろ」

 はぐらかしているのだと思った。そのくらい馬鹿げている答え。

 いい加減にしろ。訳の分からないまま散々付き合わせておいて。

 そう続けようとした神奈は、俐音の表情を見て口を閉ざした。
 ほんの一瞬だけだったが、泣き出しそうに顔を歪めたから。

「信じないならそれでいい」

 無表情に戻して俐音は下を向く。
 男の子が不思議そうに見ていた。

「もう響は言い方が悪すぎ! 俐音ちゃん違うからね? 信じてないわけじゃないんだよ」

 ぱしんと小気味の良い音をさせて神奈の頭を叩いた穂鷹が言う。

「起こってる事が突飛すぎて頭が追いつかないけど、嘘だとは思ってない。俐音ちゃんはそんなことしないって知ってるから」

 響だってそうだろう。
 でなければ、ここまでついて来ていない。

 ニコッと笑った穂鷹に、身体から力が抜けるのを感じた。緒方のときと同じ脱力感だ。
 神奈の方を見れば罰が悪そうにそっぽを向いてしまった。

「かん……」
「幽霊じゃないって言ってたな。カミサマだとか」
「あ、まぁそれは私が勝手に言ってるだけで、本当のところはこの子が何なのか知らない」
「だったら初めからそう言え。お前は言葉が足りない。混乱するだろうが」

 こつんと軽く頭を叩かれて、神奈がいつの間にかすぐ前まで来ている事に気付いた。

 神奈から触れてくるのも笑っているのも

「響には言われたくないよねぇ?」
「うっせ」

 ああ、本当に久しぶりだ。
 ほんの数日間の事だったけれど、その何倍もこんな風に普通に会話していなかったような気がする。

 こみ上げてくる嬉しさを唇を噛んで誤魔化した。
 男の子はその間も黙って俐音達を見ていた。

「ごめん、もう本当大丈夫だから」

 この子は何なのか、どうしてここにいて、何のために悪戯をしているのかを訊かなければならない。

 男の子は真っ直ぐ俐音を見つめると、ぐいと手を引いて走り出した。
 体勢を崩しながらも何とか足を出した俐音は、空いていた方の手で神奈の袖を掴む。

「あ……?」

 そのまま連なって教室から出て行ってしまった二人の後を、穂鷹も慌てて追った。




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