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 階段を一歩ずつ上ってゆく。
 屋上に行くのにこれほどまでに緊張を強いられたのは久しぶりだ。

 上がりきってしまうと疲労とは別の理由で心臓がうるさく音を立てる。
 ゆっくりとドアを開けると少しひんやりとした空気が入ってきた。

 いつもと同じ場所に、いつもと同じ二つの人影。

 違うのは俐音の緊張感だけ。

 ふわりと被った煙に眉をひそめると、穂鷹はごめんと煙草の火を消す。

 その隣にいる神奈は俐音を見やっただけで何も言う事なくまた前を向いた。

「馨とのお話は終わったの?」
「うん。今からこっちでもっと真面目な話」

 俐音が緊張した面持ちで神奈を見ているのに気付く。

「じゃあオレはいない方がいい?」
「穂鷹もいなきゃ駄目だ」

 そうじゃなきゃ意味が無い。
 本当は壱都や小暮だって一緒の方が良かった。

「二人ともちょっと付き合って」

 言って踵を返した俐音に、神奈と穂鷹は顔を見合わせた。





 俐音が持っていたファイルに挟まれた書類を神奈は覚えていた。
 以前、生徒会室に行ったときに渡されたものだ。

 悪戯とも言えないような不可解な行動を取る奴がどうも校内にいるらしい。
 そんな事が書かれている、理事長からの書類。

 これが何なんだ。前を歩く俐音を見ながら思う。

 もう生徒は下校していて誰も歩いていない廊下を進んでいく。
 時々何かを探すように左右を見回したりしているが、立ち止まる事はない。

「ねぇ俐音ちゃん何捜してるの? 言ってくれたらオレらも手伝うけど」

 二人はただ後ろをついていっているだけだ。
 話があるのではなかったのか。

「それ読んだだろ? 犯人捜してる」
「はぁ……」

 そうだろうとは思っていたが。
 説明不足の俐音に苛立ちを覚えた神奈は足を止めた。

「おい」

 低く、短く背中に投げかける。
 ゆっくり振り返った俐音はいつも通り感情の乏しい顔で見返してきた。

「訳も分からんまま引っ張りまわされんのは真っ平だ」
「……言うより見た方が早いと思うから」
「だから、何をだっつってんだ!」
「カミサマ」

 ガタン――

 俐音の短い言葉に唖然としたのと同時に、近くの教室から音がした。

 誰もいないと思っていたのに、まだ残っている人がいたらしい。

 特に気にしなかったが、俐音は教室へと駆け出した。

 扉を開けて中を覗くと誰もいなかった。
 ここじゃなかったようだと隣の教室に行こうとした神奈のセーターを俐音が掴む。

「見てて」

 もう片方の手で教室の一点を指差した。



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