▼page.4 HRが始まり、静かになった教室の中。 廊下側の一番後ろの席に座ってぼんやりと担任の話を聞き流しながら、顔と眼鏡の間に落ちてきた前髪をかきあげた。 目が悪いわけではない俐音は今まで眼鏡を掛けた経験がなかった。 この学校に通う事になったときに菊が無理やり、顔は少しでも隠れていたほうがいいからと押し付けてきたのだ。 慣れれば平気だと言われたけど、視界が狭いし鼻頭は気持ち悪いし走ったりするとずれるし、出来るなら外したい。 だが菊にこれ本当に意味あるのかと尋ねると『これしてなかったら100%女だって気づかれマスよー、逆にこれさえしてればバレる心配ないデース』と人を馬鹿にしているとしか思えないような変な日本語で、何の根拠があってかやたらと自信満々に言うものだから、そういうものかと外せないでいる。 担任が点呼のために生徒の名前を呼び出したその時 スパーンッ と勢い良く後ろ側のドアが開いた。 反射的に振り返るとすぐそこに立っていたのは、通常ならもうとっくに前の席に座っていないといけないはずの神奈。 しかし彼は、席に着くどころか俐音の首に腕を回し上へ引っ張り上げた。 「うぐっ!?」 予想外の行動に対処しきれなかった俐音は、イスを思い切り後ろに倒して立ち上がらされた。 訳が分からないが何やらこのままだとマズい。そう直感的に思って助けを求めるべく辺りを見回した。 だが突然の事にクラス中が呆然としてしまっている。 こいつ等はダメだ! 使い物にならない!! 瞬時に見切りをつけて担任に視線を移すと、担任は体を屈め教卓に肘をつき、ニヤニヤと笑ってこっちを見ていた。 笑ってないで何とかしろよ! 授業始まっちゃうだろ!? そう念を込めて睨みつけた。 「じゃあ、こいつ貰ってくぞ」 「おー、んじゃ神奈と鬼頭は出席、と」 「はぁ!? 勝手に貰うな!オイ担任っ! 俺はいいとして、出席してないだろっ神奈は!!」 言いながら巻きつかれた腕を剥がそうと必死にもがくがビクともしない。 「めんどくせぇな」 ボソっと呟いたかと思うと神奈は俐音から手を離した。 「うわっ!」 その次の瞬間、浮遊感におそわれ、視界が一変する。 目に映るのは神奈の背中と床のみ。神奈の肩に担がれたのだ。 「おおー」 「感心してないで助けろよ担任ー!」 「ははっ! やなこった。長いものには巻かれろってな」 意味分かんねーよ! どう考えてもお前のが長いだろ! 身長も、立場も!! 担任に対する怒りも込めて神奈の背中をバシバシと叩いても堪えた様子はない。 「――っ、降ろせ!」 「あーはいはい、目的地に着いたらな」 「それじゃ遅いんだよっ」 こんなやりとりをしている間にも神奈は教室を出て歩き始めている。 「この……人貰いー!!」 「いや、人さらいだろ」 廊下中に響いた俐音の叫び声を聞いて、HRを終えた増田は苦笑しつつツッコんだ。 前 | 次 戻 |