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 何だか妙な感じがした。

 制服のまま手を繋いで校庭を歩いているところを他人に見られたらどうしようかと辺りを見渡す。
 壱都が気にした様子もないのは無頓着なせいなのか。

「響は来ないよ」
「へぅ?」

 突然振られた言葉の意味が理解できないのと、『響』という単語に過剰反応してしまったのとで奇妙な返事になってしまった。

「どうする?」
「どうって何が……?」
「響は何でも自分の手から離れたらそれまでなんだよ。追いかけたりしない」

 逃げ出した時も、怖くて後ろを振り返ったりしなかったけど追い掛けてくる気配はなかった。

「俐音はもう逃げちゃってるでしょ?」

 柔らかな笑みを崩さない壱都は続ける。

「もし今まで通りに戻りたいんだったら、俐音がそう伝えなきゃだよ」

 紙袋を握る手に力が入る。

 いつもは気付いていても見て見ぬふりをする神奈が、それをしてくれなかった。

 隠したいものを引きずり出そうとしてくるみたいで耐えられなかった。

 どうしようもなく怖かったとはいえ、傷つけたのは俐音の方だろう。
 それなのに図々しく、仲直りがしたいと言って許されるものなのか。

「どうしても嫌なら俺から言うけど。『もう二度と顔も見たくない。消え失せろ』でいいかな」
「良くないですよ、何の解決にもなってないどころか悪化させてるじゃないですかっ!」

 あくまでも普段と変わらぬおっとりとした調子のまま、顔に似合わない暴言を吐く壱都に少なからずショックを受ける。

「……自分でちゃんと言います」
「うん、それがいいよ」

 初めから口を挟むつもりは無かったに違いない。
 何も神奈だけでなく、壱都の性格だって未だ掴めていないのだと改めて痛感した。

「えーと、じゃあ帰ります」

 玄関から出ようとしたが、壱都が手を放さない。

 何ですか、と見上げたら有り得ないくらい至近距離に壱都の顔があり、しかも次の瞬間には額にそっと何かが当たる感触があった。

「な……っあ?」

 とっさに空いた方の手で額を押さえる。
 離れた壱都の顔には相変わらず笑みが称えられている。

「上手くいきますようにっていうお呪い」

 俐音が反応を返しきれないうちに「気をつけてね」と言ってクルリと方向転換して行ってしまった。




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