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 バンと大きな音を立てて俐音は部屋の中に入ってきた。

「……俐音ちゃん?」

 入ってきたものの俯いたままドアから動こうとしないのを訝しんで穂鷹が話しかけた。
 だけど俐音はそんな穂鷹の横を素通りして壱都の前まで行って彼の制服を掴む。

「穂鷹フラれてやんのー」
「面と向かって言わないでくれる!?」

 緒方と穂鷹の会話も聞こえていないのか、俐音は何の反応もなくただ壱都の袖を掴んだままだ。

「どうかした? 響に苛められたの?」

 壱都は頭を撫でながら問うた。
 首を横に振って否定するが一瞬手が震えて、それが神奈が関係している事を示していた。

 俐音の顔を上に向けさせて瞳を覗き込むと、彼女にしては珍しく視線を外した。

「神奈に嫌われた、かも。あんな辛そうな顔……」

 そう吐き出した言葉。彼女自身も辛そうに眉を寄せる。

「俐音、何があったの?」

 壱都は俐音を抱き締めて、あやすように背中を撫でた。
 俐音は暫く何も言わずにいたが、やがてぽつぽつと思いつくままに経緯を喋り始めた。

 話を聞いている間、壱都が相槌を入れる以外は誰も腰を折る事もなく黙って訊いていた。

 全て話し終えた俐音は縋るように壱都を見つめる。
 気休めでも大丈夫だと言って欲しくて。

 壱都は俐音の手を取ると「帰ろうか」と言って笑った。

「じゃあこれ持って帰りなよ!」

 緒方は箱の入った紙袋を俐音に手渡す。
 その袋は重たかった。

「貰って、いいんですか? これ」
「出血大サービス! もうダラダラだよ!」
「えっと、すみません、気を使ってもらって」
「いいってー、今度返してもらうから」

 同じものを返せばいいのだろうか。首を傾げながらも俐音はお礼を言って壱都と共に部屋を出た。

 それを見送った三人は顔を突き合わせて半ば呆れながら、うーんと唸る。

 さっきの俐音の状態は普段からは想像がつかないほどの沈み方だった。

「まぁ俐音ちゃんは壱都先輩に任せるとして問題は響だなぁ」
「だけど珍しいよな、誰かともめたりする奴じゃないのに」

 何を考えてるんだか、と呆れる小暮に穂鷹は苦く笑った。
 穂鷹には何となく分かる気がしたからだ。

「そんじゃオレは響探してくっかな」

 イスから立ち上がって伸びを一つした後、穂鷹は携帯電話を取り出した。

「ところで壱都は人選ミスだった気がするんだが」
「うーん……大丈夫、とは言い切れないけど、んー」

 神奈と連絡を取って穂鷹が部屋から出て行った後、小暮と緒方は今更過ぎるところで一抹の不安を感じていたのだった。





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