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 朝、登校してきたときとか、体育から戻ったときとか、教室が一旦空っぽになるとその現象は起きる。

 それはとても些細な違和感。
 机の上に置いてあったはずのペンケースが何故か他人の机の中に入っていたり、ロッカーが空いていたりという、実害としては極めて小さい嫌がらせのようなものが最近校内で多発している。

 特別棟に向かう途中、安部に渡されたクリアファイルに挟まれた紙にざっと目を通した俐音はつまらなさそうに神奈にそれを寄越した。

「理事長ってどこからこんな話集めてくるんだろ」
「さあな、地獄耳なんじゃねぇの」

 神奈も興味が湧かなかったのか、僅かに目を細めただけの反応しか示さない。

 そんな彼を俐音はチラチラと窺い、何か言いた気に口を開いては諦めたように前を向く。
 理事長という単語を出した事で、昼休みの一件を思い出してしまったのだ。

「だからお前なぁ……その中途半端なのやめろって。言いたい事あるならさっさと言え。言えん事なら初めから態度に出すな」
「な、だって聞きたいけど聞きにくいって言うか、答えてくれないかもしれないし……神奈こそ中途半端なんだよ!」
「逆ギレすんな」

 手の甲で軽く俐音の頭を小突く。
 やっぱりそうじゃないかと、心の中だけで反論した。

 神奈は言葉がきついが、絶対に乱暴な事はしない。
 穂鷹などには本気で殴ったり蹴ったりとしょっちゅうしているが、俐音には決してしない。

 女の子なのだから当然かもしれないが、きちんと区別してもらえているのはこの場合は嬉しい。

 だがその区別の延長上で神奈が俐音に自分の事を何も話さないのだとしたら、やめてくれと思う。

 全てそこで境界線を引くのなら、いっそ穂鷹と同じ扱いでいい。

「神奈と私は友達?」
「はぁ? 何言ってんだお前」

 バカにするように聞き返されて、俐音は勢いよく神奈の方を向いた。

「ち、違った? もしかして私の一方通行!?」
「違うのは俐音の思考の飛び方だ。何を今更って言ったんだろうが」
「あーもう心臓に悪い奴だな、それならそうはっきり言え」

 勝手に勘違いをしておいて文句を言う俐音に神奈は溜め息をついた。
 そもそも会話を突然方向転換させたのは俐音の方だというのに。

 俐音からしてみれば話はずっと一本道を通っているのだけれど、あくまでそれは俐音の中だけなので神奈に伝わるはずもない。

「何でいきなりそんな話になるんだ」
「……や、理事長がやたら神奈の事詳しくってちょっと悔しかった。響と仲良しなのよって楽しそうに言うから。ああじゃあ神奈の事何も知らない私は仲良くないのかって不安になった」

 もしかしたら友達だと思われてないのではないか。
 そんな事まで考えたら不安になって、寝ているところをわざわざ起こして話をしたり、嫌がる神奈を放課後連れまわしたりといつも以上に一緒にいようとしてしまう。



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