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「なんでって俺生徒会なんですけど」
「は? え、そうなの!? 神奈、どうしてそれ先に言わないんだ。知ってたら直貴に書類預けて帰れたのに」
「知ってたら、だろ」
「あーそうだな、どうせ二人とも俺の事なんかどうでもいいから知らなかったんだよな」

 知ったところで、書類を預ける程度の意味合いしか持たないという事実に、二人の性格をそれなりに承知していても落胆を隠せない。

 投げやりな直貴に神奈は無反応、俐音はその場凌ぎの体裁を取り繕う言葉を吐いては更に直貴の機嫌を悪化させた。

「そうやってると違和感ないね」

 事の成り行きを黙って見ていた安部はクスリと笑う。

「何が言いたいんだ」

 安部に対して、俐音は苛立ちを隠そうとしない。
 尋ねているようだが、安部が言外に含めているところは理解している。

 普段よりも低い声を出すと、直貴が驚いたように神奈の方を見た。

 だが神奈も二人の関係性を把握していないから、直貴の視線を受け流す。

「壱都がね、ただの後輩にあんな態度取るはずがないんだよ」

 文化祭時、安部が壱都に俐音は彼女なのかと訊くと「うん」と答えた。

 彼が男の後輩にそんな冗談を言うような人ではない事をよく知っている。

 俐音が女装をしていて周囲から奇異に見られないからと言って、男と手を繋いだりするはずがないという事も。

 壱都を熟知しているからこそ、男子校に女の子が紛れ込んでいるという非常識な事の方が事実である可能性が高いと断言できた。

「ああ、思い出した。安部 千春(あべ ちはる)」

 ぴりぴりとした空気を漂わせる俐音の隣で、神奈がいつも通り抑揚のない調子で言った。

「そうだけど、指差すのやめてもらえないかな。ていうか遅いね」

 神奈は呆れる安部も気にせずゆっくりと手を下ろす。

「神奈、安部の事知ってんの?」
「ちらっと。確か馨とすんげ仲悪い奴」
「……緒方先輩と」
「緒方が一方的につっかかってくるだけだよ」

 緒方は我が侭は言うが、人を選り好みする事はない。
 どんな人が相手でも人間関係を円滑に進める術を心得ていると思っていた俐音には意外だった。

 相手が安部だから、と言われればそれで納得してしまうだろうが。

「それより貰うもん貰ってさっさと帰りたいんだけど」

 緒方が露骨に嫌う人間なのだと思えば、尚更ここにいたくない。
 俐音が手を出すと、安部は何も言わずにクリアファイルを渡した。

「俺は君がどっちでも本当はいいんだよ、あの壱都がからかえるかもしれない。そこが重要ポイント」
「……緒方先輩がなんでアンタ嫌ってるか解かった」
「え? そう?」

 同族嫌悪。
 二人は良く似ている。価値観がそっくりだ。

 俐音が抱く感情が違うのは、自分に接してくる相手の態度の違いだけで、本質的には似たものを感じた。

「用が済んだんだったら帰るぞ」

 神奈は温度差のある俐音と安部のやり取りに嫌気が差したらしい。

「またいつでも遊びにおいで」

 出て行く二人に安部は手を振った。
 誰が自分から遊ばれに来たりするものか。
 そんな思いを込めてドアを閉める瞬間、俐音は唸るように歯を剥いてみせた。

 だがパタリと閉まった後、すぐにまた開いて顔だけ覗かせた俐音は「おいしい紅茶と高級なお菓子があるなら来る」とだけ言い残して、今度こそ出て行ったのだった。

「何あの子、いつもあんななの?」
「まぁ大体は」
「変な子」

 可笑しそうにしている安部に、俐音を弁護してやりたいのは山々だったが、直貴自身もそう思っているから何も言い返せなかった。




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