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 押しに弱い俐音は、同時に押しが強い。

 神奈にしつこく付きまとった結果、生徒会室まで同行してもらえる事になった。

「神奈って生徒会室行った事ある?」
「いや、聡史とかはたまに行って手伝わされてるみたいだけど」
「うわー……」

 俐音達はもともと生徒会の仕事を手助けするために集められたのだから、直接行って仕事をさせられる事もあって当然なのだが、いざするとなると嫌になる。

 随分とこっちにも書類から何から流れて来てるんだから、残りの分くらい自分等で何とかしろよと言ってやりたい。

 いや絶対言ってやると意気込んでドアをノックをすると、中から「はーい」と思ったより軽い調子で返事があって、ゆっくりとドアが開けられた。

「あの、この書類を渡せって理事……」

 紙から目を離して前に立っている人を見て俐音は言葉と、文句を言う威勢を失った。

 入り口に手を付いて、片足に重心をかけたリラックスした体勢が、何故か雑誌のモデルかというほど様になっている。明るい金髪が掛けられている耳には幾つものピアスが輝いていて、それらは忘れるにはいささか記憶が新しい。

 文化祭で会った壱都の友達の安部だ。

 固まる俐音を訝しむように神奈は見たが、状況が飲み込めず何も言わない。

 神奈は安部が以前に女の子の格好をした俐音と会っていたなど知らないのだから、フォローのしようがないのは当然だ。

 じわりと嫌な汗をかき始めた俐音は、ふと思いついた。
 順を追って説明すればいいだけの話だ。

 セーラー服を着ていたのは、担任に女装をさせられていただけだと。
 文化祭という特殊な日だったのだから、この説明でそこまでの違和感を抱かせないだろう。
 それに、嘘はついていない。

「驚いた、確か……俐音ちゃんだっけ。なんでここにいるの?」

 人好きする笑顔で当然の疑問を投げかけてくる安部に、俐音は頭の中で何度か繰り返した言葉を紡ぐ。

「俺ここの生徒ですから。あの時は女装させられてたんですよ」
「ふーん。俺、ねぇ。似合わないね」
「これ書類! 渡したから! もうここ用事ないから!! 行こう神奈」

 重点を置いて欲しかった部分はあっさりと無視され、まさかそこをという部分を指摘されて、これ以上は何も言わない方がいい良いと悟る。

 神奈の腕を掴んで身を翻した俐音を「ちょっと待って」と安部はあっさりと止めた。

「君等って小暮達と一緒に特別棟にいるでしょ。そっちに行くはずの仕事がこっちに来てたから持ってって」
「ていうか元々は全部生徒会の仕事だろうが……」

 ボソッと呟いた俐音の言葉に安部は笑って頷いた。
 それは手伝ってもらている事に対して感謝と謝罪が入ったものではなく、どちらかと言うと「そうだけど何か?」と開き直りから来る表情だ。

「中入って」
「あんた性格悪い」
「あれ、知ってたんじゃないの?」

 確かに壱都が安部は性悪だから近づくなと言っていたが、今回は不可抗力による接触で俐音に非はない。

 心底嫌そうに顔を歪ませた俐音に、安部はまた笑った。

「俐音! と神奈……どうしたんだお前等」
「どうしたって、え? なんで直貴が」

 部屋の中に入ると、予期せぬ来訪者に呆気に取られている直貴がいて、同じくらい間抜けな顔をした俐音がそのまま質問を聞き返した。



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