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 鼻歌を口ずさみながら芝生を横切って校舎に戻っていく緒方を暫く恨みがましく見ていたけれど、こうしていても時間が勿体無いだけだと、体力が回復するのを待ってB棟へと急いだ。

「で? 生徒会室に行って来たんだろ、何で書類まだ持ってんだよ」

 チャイムが鳴る間際に教室に戻ってきた俐音に襟首を掴まれてた神奈は、眠りを妨げられた事に幾らかの怒りを感じながらも、一応最後まで理事長と緒方に対する愚痴を聞いていた。

 聞き終わって、机の上に置かれた土まみれの書類に目を向ける。

 俐音は神奈の言葉に口を尖らせながらその書類を叩いた。

「行ったさ! なのに誰もいなかったんだ。生徒会室カギ掛かってて中入れなかったんだ。ムカつく、どういう事だよ、香り豊かな紅茶と美味しいクッキーでもてなして貰えると思ってたのに!」
「いつ行ってもそんな英国式なもてなしは無いと思うけどな。放課後なら誰かしらいるだろ」
「放課後かぁ。じゃあ神奈――」
「あ、授業始まる」

 増田が入って来たのを確認した神奈は俐音の言葉を遮って前を向いた。

「なにが授業だ、どうせ寝るくせに。教科書開きもしないくせにっ! 増田だから聞く気にならないのは分かるけど!! ついてけーっ!」
「鬼頭こそ授業受ける気あんのかコラッ」

 イスから腰を浮かせて神奈のセーターを引っ張る俐音に、増田が教卓からチョークの入ったケースを投げる。

 神奈はギリギリのところでそれを避け、俐音は神奈の背に隠れた。

 的確なコントロールで投げられたケースは俐音のイスに当たり、その衝撃で中に入っていた数本のチョークは散らばり床に落ちては砕け、一瞬にして俐音のイスの上と席の周りは粉まみれだ。

「何してくれてんだ鬼頭。今日の掃除当番の奴が大変だろうが」
「こっちのセリフだ! どうしてくれるんだよ、座れないじゃないか。あれか、授業受けさせないための陰険な罠か」

 イスを引いて完全に立ち上がった俐音が一歩足を動かすと、パキリとチョークの折れる音がした。

「あー、動くな鬼頭。取り敢えずこの時間は立って受けろ」
「ふざけんな! なんのペナルティだよ!」

 怒りをぶつけるために転がっていたチョークケースを増田に投げ返したが、難なく受け取られてしまった。

 得意気に笑う増田に腹の立った俐音は掃除道具を取り出して、授業も聞かずに自分の周囲だけピカピカに磨き上げたのだった。





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