▼page.3 「成田、お前今日ずっとここにいたのか?」 「ん。あっれ、もしかしてオレがいなくて寂しかったとか?」 「はぁ? 何しにわざわざ学校来てんのかって思っただけだ」 人差し指で頬をつついてくる成田が心底鬱陶しくて手を払いのける。 それを成田は気にした様子なくヘラヘラと笑ったままだった。 「穂鷹はサボリ魔だからねぇ」 「そーだけど、その分ちゃんとやってんじゃん!」 成田の言葉に引っかかりを感じて口を挟む。 「何を? 勉強?」 「んー、まぁ社会勉強みたいなもんだよ」 緒方の曖昧な言い方に俐音は「そうですか」と素っ気ない返事だけを返した。 笑顔の奥に何か秘めたものがあるように思えて、あまり触れない方がいいのだろうと思ったからだ。 知ってしまえばとても面倒な事になりそうな気がした。 何だかどっと疲れた。 昨日も思ったけど、学校ってどうしてこんなに疲労感が溜まるんだろう。 その現況は目の前にいる奴らのせいだろうけど。 「……帰る」 「もう帰っちゃうの?」 「ええ。さようなら先輩。また明日な成田」 まるでセリフを棒読みしたような言い方をし、くるりと背を向けた。 「じゃあねー」 「バイバイ、俐音ちゃん」 振り返る気にもなれず、二人に背を向けたままヒラヒラと手を振った。 俐音が開けた扉が自然と閉まるまで見守って、成田が緒方に言った。 「どうだった?」 その一言に緒方は悪戯を思いついた子どものような笑みを浮かべる。 それだけで成田は質問に対する答えがどんなものか理解した。 「じゃあ、あとは……」 「必要ないよ。あの人から言ってきた事なんだし、僕は先に見てみたかっただけだもん」 「まぁ、あの二人は反対したりはしないだろうしね。でも……一番難しいのは俐音ちゃん自身だと思うんだよねぇ」 「そこは響がどうにかするでしょ」 緒方はそう言って歩き出した。 「愉しいことになりそう……」 ボソリと呟いて、また意地の悪い笑みを浮かべたのだった。 俐音の預かり知らぬところで、けれど着実に彼らの思惑に巻き込まれようとしていた。 前 | 次 戻 |