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「何よ、私と響が仲良かったら変だとでも?」
「や、そんな事は……」

 どう考えても不自然だろう、という言葉を俐音は飲み込んだ。

「響に聞いてみるといいわ。絶対嫌な顔するから」

 神奈と仲良しという単語は結びつき難いが、それでも自分で言うだけあって理事長は彼の性格を熟知しているらしい。

 もともと、特別棟に神奈達を集めた人なのだから当然かもしれないが。

「樹なら愛想笑いくらいはやるのにねぇ。あ、樹には会った?」
「この前、文化祭のときに」
「双子みたいにそっくりでしょ!」

 二人とも父親似なのよ、と笑う理事長にそんな事まで知っているのかと内心ドキリとした。

 俐音の事ならまだ分かる。入学させる前に一通り調べただろうし、菊からも色々聞いているに違いない。

「もしかして全員の家庭事情まで調べてるんですか」
「え? ……ああ、そうかぁ。響は何も言ってないのね。私があの二人に詳しいのは特別よ。その辺の事情も響に聞いてみるといいわ」

 一人で納得して意味ありげに笑う理事長から目を離した。
 まただと思った。

『本当に何も話してないんだ』
『兄さんは何も教えてくれないよ?』

 樹に言われた言葉が頭を過ぎる。
 俐音だけが神奈の事を何も知らない。教えてもらえないと釘を刺された。
 一回り以上も歳の離れた理事長でさえ知っているのに。

 だったら俐音は神奈と仲が良いなどと言えないのではないか。

 沈む俐音に理事長はクスリ笑う。
 入学してからというもの、環境の変化と特殊な事情から、自分からずっと一緒にいるはずの彼らの事について知ろうと思う所まで、心に余裕が生まれなかったのだろう。

 今からでも遅くない。
 少しずつでも周囲に目を向けていけばいい。

「さて、私は仕事が山盛りなのよ。だからこれを生徒会室に持って行ってもらえないかしら?」

 一方的に始めた話を、また勝手に打ち切って、机の上に置いてあった数枚の紙を取って俐音に渡した。
 何が書かれているのかと内容を見てみれば、上から下までびっしりと詰まった表に数字の羅列が書き込まれている。どうやら金額のようだ。

「文化祭で掛かった費用の報告書よ。サインしたから返してあげて欲しいの」
「渡せばいいんですね」
「ええ。彼らが素直に帰してくれたらね」

 とてつもなく嫌な予感がした俐音は、書類をテーブルを置きなおそうとしたが、理事長にがっしりと手首を握られて阻まれてしまい失敗に終わる。

 素直に帰してもらえる気が更々しない。

 だが理事長に逆らう勇気もなく、とりあえず大人しく出てきたけれど、うっかり手が滑ったことにして捨ててしまおうかと廊下の窓を開ける。




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