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 彩を小暮に任せて一人教室に戻った俐音は、増田の爆笑とクラスメイトの賞賛を同時に受けた。

「はーい、ちょっとみんな下がってー。俐音ちゃんに近寄らないで。写メとかそういうの、ちゃんと事務所通してからにしてねぇ」

 先に教室に戻ってきていたらしい穂鷹が俐音の前に立って、犬でも追い払うようにシッシッと手を振る。

「マネージャーかよ、成田ー。つーか事務所ってどこだよ」
「響、響。あいつの許可とって」
「無理じゃん! 絶対土下座しろとか言うぜ? 神奈なら」

 近くのイスに後ろ向きに座って傍観していた神奈にみんなの視線が集まる。
 穂鷹の後ろから顔だけ出して絶対に許可なんて出すなと訴えてくる俐音と目が合った。

「じゃあ土下座しながら『俺はゴミにも等しい存在です。生きててごめんなさい。写メ撮らせてください』って言ったら考えてやってもいい」
「許可出す気ねぇー! 代償がデカすぎだろっ!」
「お前等諦めろ、男が男の写真欲しがるなんて虚しいだけだぞ。散れ」

 やっと笑いの波が一段落したらしい増田が、それでもお腹を押さえたまま言った。
 はーあ、と目に溜まった涙をシャツの袖で拭いている。

「ところで駒井はどうした、迷子か?」
「んー、まあそれに近い部分があるような。大丈夫、捜索隊がちゃんと捜してくれてる。」
「なら、放っておいてホームルーム始めっぞー」

 俐音のセーラー服姿だけで思う存分笑えて満足した増田は、深く追求せずにさっさとホームルームを終わらせる事にした。

「ちょっと待て、俺はこのカッコのまま?」
「後にしろ。どこまで着替えに行ってたのか知らんが戻るまで随分待たされたからな」
「元はといえばアンタが着替えさせたんだろうが!」
「ここでなら今すぐ着替えていいぞ」
「出来るかぁ!」
「んじゃ後な。そう怒らんでもすぐ終わるって」

 マイペースを崩さない増田に上靴の一つでも投げつけようと構えたが穂鷹に止められた。
 十倍返しは免れないからだ。

 自分で言うだけあってすぐに終わったホームルームの後、トイレに直行しようとした俐音を引き止めたのは直貴だった。

「俐音、悪いんだけど一枚だけ写メいいか?」
「やだ」
「あーそういうと思ったよ、お前そういう奴だよな。でもそのセーラー服姉貴に借りる交換条件で着る奴の写真撮らなきゃいけないんだ。じゃなきゃ俺が殺される!」

 どんなバイオレンスな姉貴だ。
 直貴は必死で、冗談を言っているようには見えず、自分が突っぱねたせいで殺されては敵わない。
 俐音は渋々一枚だけならと承諾した。

「あー、俐音ちゃん守村にだけずるい」
「アホか。穂鷹はいっつも盗撮してくるくせに。それに直貴だってお姉さんに見せたら削除してくれるはず。そうだよな?」
「…まあ、うん」
「何その間、その歯切れの悪さ。ちょっと守村その携帯へし折らせて」
「いやいや、消すって! 俺、これから生徒会だから。じゃあな」

 そそくさと走り去った直貴の後姿を、穂鷹にしては珍しく不機嫌そうに見ていた。

「余裕ないな、お前。たかが写真の一枚くらいで」
「されど一枚でしょうが」
「ていうかさ、撮られたのは私なのにどうして穂鷹が怒ってんの」

 俐音からしてみれば、ごく自然な質問だったが投げかけられた穂鷹と神奈は黙って俐音を見ただけで何も答えない。神奈に至っては呆れも混じっている。

「俐音ちゃんはいいんだよ、分かんなくて。ほら、着替えてきなよ」

 明らかに答えをはぐらかされたが、さっきから他クラスの生徒にじろじろと見られて居心地が悪いのも確かなので、何も言わずに俐音はトイレに向かった。

 直貴が撮った一枚が俐音に影響を及ぼすのは随分と先の話で、今の時点では誰も想像すら出来なかった




end



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