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「ムカつく……ムカつきすぎてこの制服ビリビリに破りたい」
「だ、ダメだからね? それ守村くんのお姉さんのらしいから」
「直貴の? なら出来ないなー、くそっ。あいつ良い奴だからなぁ」

 穂鷹や神奈とは違い、俐音はきちんと教室に顔を出して授業を受けている。
 大抵は彩と一緒にいるが、直紀ともよく話すようになった。
 話すうちに打ち解けて“良い奴”という位置づけに至った。

 先ほども唯一人だけ俐音達に同情的な目を向けてきたのも直紀だ。

 あまり生徒が行き来しない場所まで移動して、ぶつぶつと文句を言いながら空き教室に入り、二人は着替え終わりお互いの姿を見てから言葉が出てこない。

 どこを隠しようもなく女だった。
 こうなってしまうと、俐音のメガネも何の意味も成さない。

「ヤバイよね……これ」
「な、なんとかなる! 絶対女だとか指摘してくる奴は片っ端からぶん殴る」

 言いながら腕を振りかぶる俐音に、彩は吹きだしてしまった。

「俐音って変な所で思い切り良すぎ」
「仕方ないだろ? 誰かが数学の課題は嫌だとか言うから」
「う、ごめん」

 彩は申し訳無さそうに謝りはするものの、今からでも課題に変えてもらおうと言わないくらいに、数学は回避したいらしい。

 俐音は自分の制服を畳み、クラスメイト達が喧しいくらいに反応を示すだろう教室に戻るため空き教室から出た。

 出てすぐに人影が目に入り、拙いと咄嗟に彩を押して部屋の中に戻す。

「あ、え? 鬼頭それ……」
「なんだ小暮先輩か」

 最悪、相手を気絶させて逃げようと考えて身構えたが、その相手が小暮だと分かると構えを解いた。

「このカッコはあれです、文化祭の。先輩こそ、こんなとこで何やってんですか?」
「俺も準備で色々走らされててな。この部屋の中にペンキ取りに来たんだ」

 ペンキ、と頭の中で繰り返す。
 言われてみれば、部屋の片隅に無造作に幾つも積み重ねられていたような。

 入り口を塞ぐ位置に立っていた俐音は退こうとして、彩を中に入れていた事を思い出した。

「あー今はちょっとこの中入るのは……。心の準備とか出来てないと思うんですよね」
「いやペンキ取りに来ただけだから別に準備とか要らないだろ」

 先輩じゃないんです、この中で多分かなり挙動不審になってるだろう彩の事なんです。
 うっかり口を滑らせそうになる。俐音自身も内心かなり焦っていた。

 どうにかしようと考えを巡らせたが、どうにもなりそうにない。
 まるで友達を売るような気分になりながら、俐音は後ろ手でドアを開けた。

「ごめん、彩!」

 悲鳴でも上がるかと思われたが何の反応も返ってくることはなく、中を覗き込もうとした時にガラガラッとドアの開く音がした。

 俐音達が立っているのは教室の後ろ側のドアで、今開けられたのは前側。
 彩が内側から開けたらしく、飛び出してそのまま走り出した。

「あっ、ちょっと先輩!?」

 往生際が悪く逃げようとした彩もどうかと思うが、ここは小暮の足止めをしてやるべきだろうとしたが、俐音が止める間もなく小暮は彩を追って行ってしまった。

「うわ、早ぁ」

 あれでは追いつかれるのも時間の問題だ。

 俐音には何故あそこまで必死に彩が逃げようとしていたのかが理解できない。
 小暮の人となりを知らないせいだろうか。

 彩、小暮先輩だったら大丈夫だよ。

 心の中でそう呟いて、俐音は彩達が走り去った方向に背を向けて歩き出した。




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