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 男前な理由を口にすると、彩は感動したように胸の前で手を組んだ。

「やった……鬼頭サンキューな! いててでっ!」

 バシバシ背中を叩いてくる男子生徒の手を掴んで関節をちょっとおかしな方へと曲げると、面白いくらいに痛がってのた打ち回った。

「ちょっとちょっと俐音! コイツの腕有り得ない方向いてるんだけど!?」
「ああ、だって痛かったから」
「オレのが痛いわー!!」

 直貴に止められて俐音は手を離し、左手で右腕を押さえながら喚いた男子生徒に「気にするな」と言って、その右腕を思い切り叩いた。

「いだー!」
「お前ら作業もしないで何騒いでるんだ?」

 教室に入ってくるなり増田が不思議そうに声をかけてきた。

「あーっ担任! あんたのせいで面倒なことになっただろうが!!」
「面白くなりそうだろう?」
「どこが!?」

 何だってこんな小憎らしい表情でいつもいつも嫌がらせをしてくるんだ。
 総てが増田によって仕組またことだと思うと腹立たしくて仕方がない。

 数学の冊子の下敷きにされている制服を掴んで引き上げる。
 冊子が次々と床に落ちていったが気にはしなかった。

「こんなもん着て何が楽しいんだ!」
「昔から女装は評判いいんだぞ? 汚かったら笑いとれるし、似合ってれば話題になるし。あんま話題になりすぎると後の学校生活困るけどな」

 俐音と彩は女だから変に見える事はないだろうし一歩間違えれば二の舞になり兼ねない。
 そして、増田はそうなる事を期待して笑っているのだ。

 やはり引き受けるべきではなかったかもしれない。

「まぁ折角現物があるんだから試しに着てみたらどうだ?」
「見切った。アンタが教師の顔して発言した時は、絶対に裏がある時だ」
「鬼頭はまだまだだな。俺に裏がない時なんてないぞ」
「自分で言うなーっ」

 開き直られると、それ以上何を言っても無駄だ。

 彩を後ろに庇いながら増田を威嚇するも、全く堪えた様子もない。

「ほらほら、早くしろよ。お前の晴れ姿を撮って菊に送ってやるから」
「晴れ姿ってなんだ、携帯取り出すな!」
「よし、じゃあこうしよう。お前等が着替えるまで今日は全員帰れないっつー事で」

 増田の軽い発案に、教室内で作業をしていた全員が「えーっ!」と声を揃えた。
 その音量の大きさは俐音の後ろにいた彩がビクッと体を振るわせるほどだ。

 その後には二人に対して矢継ぎ早に抗議を繰り返す。増田に何を言っても無駄なのはみんな百も承知で、崩しやすい俐音達に矛先が行くのは当然のこと。

「わ、分かった! ちょっと着替えりゃいんだろっ!」

 彩にこの状況で言い返せるような度胸はなく、迷惑を被る事を嫌う俐音はその逆もまた避けようとするから、周囲を巻き込めば逆らえない事など考えるまでもなく増田には読める。

 そしてまんまと嵌められた俐音は、憤然としながら二着の制服を鷲掴みにして、彩と共に教室から出た。




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