▼page.8 「それカフェっていうの?」 俐音が抵抗を続けていた頃、増田からクラスの出し物を聞いた穂鷹の第一声がこれだ。 「まぁ平たく言えばコスプレ喫茶だな。お前らももちろんやってもらうぞ。恰好の客引きだ。おい神奈、あからさまに嫌な顔をするな。普段クラスにいねぇんだからこんな時くらい協力しろ」 「あんたの口から協力なんて言葉が出てくるとは思わなかった」 「言うだけならタダだからな」 無駄に爽やかに笑ってみせ、ああそうだ、と思い出したように付け加えた。 「鬼頭はセーラー服だぞ」 サラリと言ったその内容に、穂鷹は目を剥いた。 「俐音ちゃんよく引き受けたね」 「阿呆、やらせるんだよ。拒否権なんざあるか」 「……」 黙りこくる穂鷹を余所に「面白い事になりそうだなぁ」と心底楽しそうに言いながら気だるそうに他の生徒の所へと歩いて行ってしまった。 「…そういえば、まっちゃんと理事長って仲良いけどさ」 「どこまで分かってて言ってるんだか」 侮れない、と二人は増田の後ろ姿を見ていた。 * そしてまだ教室では俐音が攻防を繰り広げていた。 「いい加減諦めてくれないかなぁ」 「お前らこそ、着ないって言ってるだろ」 「成田や神奈も着るんだぞ」 「セーラー服を!?」 「いや、それは違うけど」 「なんだ。どうせ許可とってないだろ、言ってるだけだろ」 たじろぐクラスメイトを見て、だと思ったと鼻で笑う。 穂鷹はいいとして、神奈が引き受けるわけがない。露骨に嫌な顔をして突っぱねるに決まってる。 「あーくそ、これだけは使うまいと思ってたけど……俐音がそこまで頑なな態度をとるなら致し方ない……」 直貴がドサッとセーラーの上に容赦なく叩き出されたのは「数学T」と印字された厚みのある冊子。 「これが一人分だ。俐音が引き受けてくれないと、これがクラス全員に配られる。そして来週までの課題となる」 「そんくらい、やればいいじゃないか」 そう言ってから、ハッと気が付いて彩を見ると青ざめていて。 彩は数学が苦手だった。 「ん? 数学って結局担任の入れ知恵か!」 「だったら何だってんだ!」 「ほーら駒井が困ってるぞぉ、つーかオレらがマジで困る! お願いだっ助けてくれ!!」 半泣きですがりつかれて思わず押し退けてしまった。 「お前等なぁ……自分の首締めてどうすんだよ」 「俐音……」 不安気に俐音を見つめてくる彩。 「え、もしかして数学の課題で苦しむよりもセーラー服着る方を選ぶのか!?」 「だって数学……」 「……はぁー、ったくもー」 「やってくれるのか!?」 コクリと頷いてみせる。 仕方ないだろう。彩がこんな泣きそうになってるのにやらないなんて言えるか。 前 | 次 戻 |