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 教室を出てすぐ、神奈は溜め息を吐いて穂鷹を見た。

「お前すっかりと俐音に操作されてんな」
「何とでも」

 開き直りやがって。

 面白く無さそうに窓の外に目をやり、ふと思いついた事を口にした。

「そういや、出し物って何やるんだ?」
「あ、知らない」

 殆ど教室の方へ顔を出さない二人が知っているはずもない。
 知らないままに作業をしているのだが、「どうでもいいか」と疑問を放り投げて指定の場所へと向かった。





「ムリ!!」

 二人が出て行ってすぐに教室で別の作業をしていた彩の大きな声が聞こえて、俐音は素早く後ろを振り返った。

 次から次へと……今度は何だよ。

 きっと今日の運勢は最悪なんだ。大殺界なんだ、方角が悪いんだとテレビで得た知識を脳内でひけらかして、声がした方へと歩いていく。

「彩?」
「あ、俐音……!」

 どうしよう! と大きめの瞳が訴えてくる。

「なに彩イジメてくれてんの」

 彩の前にいた三人のクラスメイト達にいつもより一オクターブほど低い声で凄めば、口々に違うだの誤解だのと青ざめながら言い募ってきた。

「一度にしゃべるな、聞き取れないだろ。で、直紀なにやったわけ?」

 三人のうち、唯一交流があって名前を覚えている守村 直貴を疑わしそうに見る。
 今正直に言えばひどい事はしない。そんな脅しを付けて。

「なんもやってないって言ってるだろ!」
「これだよ、これ!」

 もう一人が紙袋に入ったものを取り出して机の上に広げた。
 それを見た俐音は思わず眉を顰め、一歩後ろに退く。

「お前らそういう趣味あったのか……」

 彩の腕を引っぱって「隠れて」と自分の後ろに退かせる。
 机の上に並んでいるのはどこからどう見てもセーラー服や女の子用のブレザーの制服。
 男子高校生が持っている代物ではない。

「勘違いすんな! 文化祭で使うやつだって。俐音と駒井の衣装!」
「は?」
「女の子のカッコするならお前ら二人が一番いいだろうって増田が言ったんだ」
「増田ぁ? またアイツが一枚噛んでるのかよ。何なんだこれ。こんなもの着ろっていうのか。あ、ちょっと待て。それ以前にこのクラスって何するんだ?」
「知らないで作業してたのか? カフェだよ、カフェ!」

 お前看板書いてただろ!? と痛い所を突かれて「うるさい」と切り捨てた。

「カフェにこれは必要なのか?」
「必要でしょ。色んなカッコした方が楽しいじゃん」
「どこがだっ。やらない! 俺達は絶対やらないからな!」
「なんでー似合うって。違和感ないって」

 だからこそ問題なのだ。
 本当は女の俐音や彩が似合って当然なのだけど、だからと言って危険な橋をわざわざ渡る気にはなれない。

「鬼頭、駒井、お願い後生だから!」
「一生のお願い!」
「そんな大層なものをこんな事で使うな……」

 人生の大安売りをするクラスメイトを睨んでみるも、もういい歳した男子高生が目を潤ませて頼み込んでくるという異様な光景に圧倒されて語尾が小さくなってしまった。




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